思い出
「いま、なんと言いました?」
「貴女ができなかったことを私はできると言ったんです」
「───初めに言っておきます。
私以外が兄さんのことを知ったふうに口をきかれることが大嫌いなんです。
少々、痛い目を見てもらいますよ」
身が震え、感覚が狂ってしまいそうな程、圧倒的な力
「できるものならやってみてください。
私は絶対に負けません!」
「では、そう簡単に潰れないでくださいね」
私だけの固有技能、世界創造を使えたところで、今更その程度では驚きませんよ!
「ワールドバレット、掃射」
あんな規模の世界を相手取るに、一から世界を創っていては時間が足りません。
常に世界を創造し、弾として装填し一気に放つ!
「見事です、が、一発だけとは思っていませんよね」
私が全力を持って創る世界を易々と超える世界が視界を覆う。
折れませんよ、絶体絶命の危機なんて山ほど乗り越えてきました。
全ての神を敵に回し、生き残ってきたんです!
「礼を言います、どうやら私は全力の出し方を忘れていたみたいです」
全力でも勝てないなら、それ以上の力を、私はまだまだ強くなります!
「驚きました、どう足掻いても確実に超えられない力を込めたつもりだったのですが、乗り越えてしまうとは」
「貴女に聞きたいことがあります」
「いいですよ、ただし、貴女が生き残ることができたらの話ですが」
さらに力を増して襲い来る、流星群。
それでも、私の中にある激情は止められません。
「どうして、貴女はレンの死を望むんですか!」
「これから先、苦しむと分かっているんです。
その前に、眠らせてあげることが慈悲というものではありませんか?」
「レンは今、戦っているじゃないですか!
どうして、そのことを否定するんです!」
「兄さんも分かっているはずです、どんなことをしても無駄だと。
そんな奇跡なんて起こるはずないと理解しています。
今の兄さんは、私に背負わせたくない一心でのみ戦っているだけです」
また、レンもミナもアリスもこの人も!
「何が奇跡なんですか!
レンが救われることは奇跡でもなんでもありません!
何より、どうして、貴女がレンの努力を否定するんですか!」
何度繰り返しても、レンはずっと舞花さんを独りにしないように、気が狂いそうになりながらも、ずっと頑張ってきたのに!
「その結果、兄さんが死んだとしてもですか?」
「私だってレンが死んでしまったら悲しいですよ、泣きますよ!
それでも、それはレンが一生、悩み続けて出した答えじゃないですか!
それを、何度もやり直して、否定して、レンを一番信じ切れなかったのは貴女です!」
「貴女に何が分かるというんですか?
貴女が、私と兄さんの何が分かるというんですか!」
まだ、強くなるなんて、いったいどれほどの力を!?
「私だって、兄さんには生きていて欲しいですよ!
たった一人、味方どころか敵すらもいなかった、私に光を見せてくれた兄さんを殺したくなんてありませんよ!」
「だったら、どうしてその事をレンに言ってあげないんですか!
だいたい、ミナもアリスも貴女もごちゃごちゃ、難しく考えすぎなんですよ!
左腕が反動でもう、動きませんか……
しかし、腕が動かなくっても、足が潰れても
「レンに幸せになって欲しい、それだけ伝われば十分なんですよ!」
「それが叶わないから、私は今ここにいるんです!
たった、出会って1年も経っていない貴女が知ったような口をきくな!」
吐き出される感情の強さに比例するように、大きくなっていく世界。
ですが、想いの強さなら誰にも負けません!
「そうですよ、まだ1年も過ごしてないんです!
だから、こうやって戦っているんじゃないですか!
これからも、レンと一緒居るために、皆で頑張っているんです!」
「私1人に勝てもしない、その程度の力で思い上るな!」
「だからですよ!
私1人だったら無理でも、私にはたくさんの仲間がいます!
貴女だって、居たじゃないですか!
どうして、助けを求めず、1人なんですか!」
「黙れ、黙れえええええええ!」
これが最期、後一言だけ言いたいことがあるんです。
だから、あの巨大な世界を打ち破る力を!
「『ラグナロク・デュナミス』」
もう、指一本動かせませんけど、最後に
「貴女の力を貸してください。
皆で力を合わせればできないことなんてありません」
後は頼みましたよ、レン
side out
よく、舞花と戦って生きていたな。
もうすぐ全てが終わる、もう少し待っててくれフリッグ
「酷い顔だな」
「兄さん……」
「そんなに感情をむき出しで睨まれると、俺たちがあった頃のお前が嘘みたいだ」
「そうですね、あの頃は生きた人形でしたからね。
思い出話に花を咲かせるのも悪くはありませんが、兄さん、終わりにしましょう」
「お前に俺が殺せるのか?」
「殺せます、もっとも、そのあと私がまともな自我を保ていられるかは疑問ですが」
「舞花、俺はやっぱり死ぬべきだと思うか?」
「ここまできて、気が変わりましたか?」
「いや、フリッグたちには悪いが、俺はずっとお前は間違えることはないと思ってる。
お前が死ぬべきだというなら、やっぱり俺は死ぬべきなんだろう」
舞花が示す道は常に最良の道。
それは、疑いようのない真実だ。
「兄さんは、兄さんはどうして私に助けを求めてくれないんですか……
そんなに、私は頼りならないんですか?」
「それは、違う。
俺はお前を一番に信用しているし、一番頼りになると思ってる」
「それなら、どうして!?」
「だからこそ、俺はお前に頼らずとも生きていけると示したかった。
お前の事だ、俺が助けを求めたら、それこそ生涯を尽くして俺の支えになろうとするだろう。
俺はそれが許せなかった、お前にはもっと自由に生きて欲しかったんだ」
そんな、自己満足が招いた結果、結局俺は舞花の人生を狂わせてしまった。
俺が素直に舞花に助けを求めていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
「俺たちはずっとすれ違ったままだったんだな。
もっと、早く、こんなふうに本音を言えたら、何か変わっていたかもしれない」
だけど、それは意味のない仮定だろう。
過去には戻れない、舞花なら戻れるかもしれないが、以前の俺たちには戻れない。
「兄さん、私は、何度もやり直してきました。
何度も何度も兄さんを死なせてしまって、その度に次こそは、そう思って、いろいろな関係を築いてきました」
「その中には、俺が女だったこともあるんじゃないだろうな?」
「ありましたよ、前にも言ったじゃないですか。
兄もいいですけど、姉もいいって」
「それは酷い話だ」
「ですけど、今回は最初にあった時と何も変わりません。
兄さんは私の兄さんで、やっぱり、初めて会った時と変わらず、ただ生きていただけの私に命を吹き込んでくれました」
「確かに、最初にあった時のお前は酷かったな。
本当に必要最低限の事しか話してくれなくて、俺はどうしてやろうかと毎日悩んだんだぞ」
「そうでしたね、私の帰りが遅いと、いつも食事の準備をしてくれて、私がいらないと言っても、兄さん以上に美味しく作ったものをその場で作って出しても、欠かさず作ってくれましたよね」
「ああ、あれは結構ショックでな、意地でもお前に食べさせてやろうと思ってな、へこませたと言えば、学校でのお前はもっと酷かったな。
挑んできたやつを完膚なきまでに叩きのめして、誰もお前に近寄ろうとしなかったもんな」
「あの頃は、加減が分らなかったんですよ。
どうして、私に挑んでくるのか理解もできず、勝手に落ち込んでしまっても何も興味が湧きませんでした。
また、私に挑んでくるまではですけどね。
どこかのお節介さんが、カウンセラーの如く相談を受け、立ち直らせてくれたおかげで、私は毎日、何かしら挑まれて大変だったんですよ」
「そういえば、あの頃だったよな、お前が俺の作った飯を食べてくれたのは」
「はい、今までも、あの時の味は覚えていますよ。
正直、食べられたものではありませんでしたね」
「あの時は、たまたま失敗しただけだ。
食べてから、泣き出すもんだから、そんなに酷かったのか焦ったんだぞ」
「それくらい、嬉しかったんですよ。
どうして、こんなに私のことを想ってくれるのか疑問で、何でも分かったつもりでいた私には未知の経験で、混乱したことを覚えています」
「『家族だから当たり前だ』、我ながら恥ずかしいことを言ったもんだ」
「それから、私は風峰舞花として、兄さんの妹として生きてきました。
その日々は、あまりにも楽しくて、ずっと続いて欲しいと、私は初めて願望というものを持ちました」
「悪いな、俺が頼りないばっかりに、こんなことになってしまって」
「いえ、兄さんばかりの所為ではありません。
私の責任でもあります。
ですから、聞かせてください、兄さん。
兄さんはこれから、どうしたいですか?」
「この世界に来てから、いろいろな人と会った。
その中に、自分のことを神だというくせに、すぐに泣きだすわ、嫉妬心に身を任せて閉じ込めるだの記憶を奪うだの物騒な事ばっかり言う奴がいたんだ。
最初にあった時は、心底面倒くさい奴だと思ったもんだ。
俺が望んでいた永遠の眠りを邪魔したどころか、一緒に住むなんて言いやがって、さんざん苦労させられてきた。
だが、一緒に暮らすうちに、愛着がわいてきて妹みたいに思えてきて、どんどん立派に成長して、こんなどうしようもない俺をずっと好きでいてくれた。
そして、気付いたら、俺もそいつのことを好きになっていて、そいつと一緒の未来を生きてみたくなった」
「それが、兄さんの望みですか?」
「いや、それだけじゃ足りない。
俺の事をいろいろ振り回してくれる親友や、あまり人に言えたことじゃないことをサポートしてくれる妹もいる。
だが、そこにはお前が足りない。
俺はやっぱり、お前がいないと駄目みたいだ」
「本当に……ぐすっ、仕方のない……兄さんですね」
これをお前に伝えたかった。
「舞花、俺を助けてくれ」
「はい、兄さん」