決意
さて、舞花が現れた以上やることは決まっているが、それをどう説明したものか。
あいつも最後まで意地が悪い、態々選択肢を用意していきやがって。
それも、俺への当てつけか、自分を恨んでくれる人を作る為か、どちらにせよ、気分がいいものじゃないな。
「……レン、あれはなんですか?」
「風峰舞花、身寄りのなかった俺を引き取ってくれた家の1人娘で従妹の関係に当たる」
「そんなことを聞きたいわけじゃないよ。
平然とアリスとお姉ちゃんの結界を通り抜けてきたのに、何の力も感じなかった。
それに、あの人が壊したお姉ちゃんの剣って最高レベルの神器なんだよ?
アリスだって本気で壊そうと思わない限り壊すことなんてできないのに、あんなに簡単に壊すなんて……」
「俺もあいつのことはよく分からないが、1つだけ言えることがある。
あいつには誰も勝てない。
少なくとも、俺が今まで見てきた中で勝負と呼べるものがあったかすら謎だ」
例えば、プロと学生が野球をやったとしてもそれは勝負ではなく練習にしかならないだろう。
あらゆる分野で、最高の結果を出し続ける舞花に敵などいるはずもない。
「それに、今更、あいつが何者だとしても関係ない。
舞花が与えた時間は3日、その3日で決めることがある」
「どうやって、彼女を退けるかですね。
大丈夫です、彼女がいくら強くても私とレンがいれば必ず勝てます!」
「いや、あいつとは戦わない。
選択肢は2つに1つだ。
俺の事を覚えたままでいるか、忘れてしまうかだ」
「な…にをいってるんで…すか…?」
「答えを出せれば3日なんて待つ必要もない。
答えが出次第、俺はあいつに殺される。
お前たちが忘れたくないというのなら、俺があいつに言っておいてやる。
その逆だとしてもな」
「……どうしてですか?
いつものレンらしくないじゃないですか!?
どうして、戦う前から諦めてるんですか!?
それに、レンはまだ99年間は死ねないんですよ!」
「あいつは負けたことがない、言い換えればあいつにできないことはないんだ」
あいつが、このことに気付いてないはずもないだろう。
おそらく、もう傷ついても……
「……そんな、どうして治らないんですか……」
「俺がどれだけ優れた策を弄しても、お前がどれだけ強くても、あいつには絶対に勝つことはできない。
あいつの前ではたとえ神だろうが人であろうが同じだ。
あいつの高みには誰も近づくことはできない」
「……そんな……」
「悪いな、どうしても決められないというのなら俺が決めておく」
「お兄ちゃん、本当にどうしようもないの?」
「……ああ、もし、抵抗しても結果は同じだ。
1度、この世界は滅び、あいつが元に戻す。
俺のいた痕跡をすべて消してな。
心配せずとも、俺がいなくてもアリスが救われるようには掛け合っておく」
「そんなのいらないよ。
お兄ちゃんがいないなら生きてたって意味ないしね。
でもね、これだけは覚えておいてね。
アリスは絶対に諦めない、不可能だって可能に変える。
誰がなんて言おうと、お兄ちゃんはアリスが手に入れるからね」
舞花を見て、あれだけの力の差を見て、まだ心が折れてないとはな。
呆れるくらいの強さだ。
「舞花に勝てるとでも?」
「それは無理。
見た瞬間、逃げ出したくなったんだよ。
でも、アリスは負けないよ。
勝つことだけが敗北を防ぐ方法じゃないもん」
「そうか、もう、止めはしない。
頑張れとも言わない、ただ、俺がいなくても幸せに生きてくれ」
「まってるよ、お兄ちゃん」
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「……成程ね、それで、私にも聞きに来たと」
「ああ、どちらを選んでも、もう、俺とは2度と会えないんだ。
時間はないが、よく考えてくれ」
「分かったわ、とりあえず歯を食いしばりなさい」
「───っつ!?
……一応聞いておくが、これはどういう意味なんだ?」
「私をその妹のところに連れて行きなさい」
「無理を言ってくれる。
そもそも、俺はあいつが何処にいるか知らないし、知っていても合わせるつもりはない」
「呼びましたか?」
「お前な、3日後って言ったのに呼ばれたからって出てくるなよ」
「今だから言っておきますけど、兄さんをからかうのが趣味なんです」
「そんなこと言わなくても分かる……」
「まぁ、今は置いておきましょう。
それで、愛しの兄さんを殴り飛ばしたミナ・レグスさん、私に何か用ですか?」
「レンを殺すのは止めてくれないかしら。
こいつは私が責任を持って矯正するわ」
「……ふむ、確かに、兄さんも若干の変化は見られるようですね。
でも、貴女ほど聡明なら分かるでしょう。
兄さんの根本は全く変わっていません」
「まだ、1年も経っていないのよ。
まだまだ、分からないと思わない?」
「いえ、分かりますよ。
とはいえ、百聞は一見にしかずと言いますし、少しだけ見せてあげましょう」
「───っぁ、ぐっ!?」
「舞華!」
「心配いりません、少し私の記憶を見せているだけです」
「──く、はっ、成程、これはきついわね」
「それでは、良い返事を期待しておきます」
「ミナ、何を見せられた?」
「レンとあの娘の生活よ。
……というか、レン、兄妹でやってんじゃないわよ!」
「──っ、ごほっ、げほっ、舞花の奴……
いや、言い訳をさせてくれ、というか見たならわかるだろ?
あれは、襲われてたんだよ」
「それにしては、き、気持ちよさそうだったじゃない!」
「それは仕方ないだろう!
それに俺は最後まで抵抗してたんだ。
その証拠にそれ以降はなかったんだぞ」
「まるで浮気の言い訳をする亭主ですね。
八方美人だからそういうことになるんです。
これに懲りたら、極度のシスコンだったころの兄さんに戻ることをお勧めします」
「舞花、流石にこれは冗談が過ぎるんじゃないか?」
「いえ、私としては兄さんがばれていないと思っているエロ本の中身を見せなかった分、良心的だと思いませんか?」
おい、いくら兄妹だからとはい最低限のプライバシーは保障するべきじゃないか?
しかも、ミナの前でいうか?
これは悪戯じゃなく、俺を社会的に殺す気だろう。
「あ、ミナさん、兄さんとセックスするときは気を付けてください。
どうしてか分かりませんが、私とする時が初めてだったのにやけに上手でしたから。
いかにも、純情そうなので、腰砕けにならないように気を付けてくださいね」
「な、え、いや、あぅ……」
「ふふっ、これは兄さんが好きそうな性格ですね。
容姿もスタイルもいい、胸も大きすぎず小さすぎず、形もよさそうですし、兄さんの好みど真ん中ですね」
「おい、俺のプライバシーをなんだと思ってる。
お前も……」
くそ、舞花が弱みなんて見せるはずもないか……
「兄さん、どうか後悔がないように。
これが最後なんですから、3人は抱いてあげてもいいんじゃないですか?」
「余計なお世話だ。」
それに、この3人なら、なおのことそんな理由で抱きたくない。
「そうですか。
ああ、私は何処にもいませんが、呼べば来ます。
なので、探そうとはしなでくださいね」
「分かった」
「では、最後に1つ約束を、自殺だけはしないでください。
兄さんを殺すのは私です」
「本当にお前に隠し事はできないな」
「私はもう、1人で生きていけるほど強くありません。
だから、お願いします」
「舞花……」
「それでは、失礼します」
俺を殺したらまた、舞花は独りに戻ってしまう。
生きていることに絶望さえできず、何も感じることができない人形のようなあの頃に。
「……なぁ、舞花、もし、俺が生きたいと言ったらどうする?」
「────兄さん、それが冗談のつもりなら本気で怒りますよ。
もしも、彼女たちの為に言っているのなら、今すぐに殺します」
「もしもの話だ。
これが、お前と最後の会話になるかもしれないからな」
「もし、もしも、そんな奇跡が起こるなら歓迎しますよ。
それは、私が求めた唯一の願いです。
……だからこそ、私はそんな奇跡を認めません。
この私ですら叶えることができなかった奇跡を信じられるはずありませんから」
「そうだよな、お前にできないことなんてなかったんだからな」
「話は終わりですか?」
ここが踏ん張りどころだな。
この世界に来てからも多くの間違いを犯してきた。
その度、お節介な奴らに立ち上がらせてもらって、どうにか前を見てきた。
そろそろ、一歩を踏み出す時だ!
俺の為にも、俺の為に頑張ってくれた皆の為に。
そして、俺の為に犠牲になろうとしている、どうしようもない程馬鹿な義妹の為に。
「舞華、戦おう。
もし、俺が勝ったら、前みたいに一緒に暮らしてもらう。
俺が負けたらそこまでだ。
潔く、お前に殺される」
「───本気…なんですか?」
「ああ、もし、お前がこの話を断るというのなら俺はお前に殺されてやらない」
「……っ、いいでしょう。
それで、一体どんな方法で私に勝つつもりですか?」
「お前が提示した3日後、この星を舞台に戦ってもらう。
勝敗条件は、俺かお前が戦闘不能、もしくは降伏した時」
「私の力を忘れたわけではありませんよね?
例え、この星の生物が束になって掛かろうと私には勝てませんよ」
「それくらいの奇跡を起こせばお前だって信じてくれるだろ?」
「いいでしょう、その勝負受けます。
もちろん、勝敗に関わらず、戦闘によって受けた被害は終わった後に元に戻してあげます。
元よりそのつもりでしょうけど」
「悪いな、勝負を吹っ掛けたのは俺なのに」
「いえ、滅多にない兄さんの我儘ですし、それに最期の我儘くらい聞いてあげますよ。
兄さん、私の為に死んでください」
「ああ、勝負だ、舞花」
些か強引ですが、レンvs舞花
未だ迷いは振りきれていないレンですが舞花の為、長きに渡る苦悩に決着を付ける為に戦います!
戦いの果てに幸福は訪れるのか!?
次回『神と悪魔』
久しぶりの作品紹介コーナー?
今回の作品は西尾維新作の『悲鳴伝』
『化物語』や『めだかボックス』で有名なあの方の作品!
この本はとにかく斬新でした。
地球温暖化、環境汚染など、人が起こし、悩ませている問題を『地球』が人を減らすために起こしているというもの。
そして、悪しき地球を倒そうとする組織、そして、主人公の異常ともいえる感性などなど、読みどころ満載でした。
それではまた次回(。・ω・。)ノ~☆'・:*;'・:*'・:*'・:*;'・:*'バイバイ☆