悪戯
side アリス
「そうですか、相変わらず趣味を疑ってしまいたくなるような鉄の理性ですね」
「お兄ちゃんの内面を考えてみれば当然のことかもしれないんだけど、時間をかけて他の人に取られちゃうの嫌だしなぁ」
「そのあたりは詳しく聞いてませんけど、複雑そうですね」
「複雑というより、単純すぎて難しいんだけどね。
ぐちゃぐちゃに絡まった糸なら少しづつ解けばいいんだけど、1点だけ固く結ばれた糸を解くのは大変でしょ?」
「成程、さらに、カザミネさん本人も解けないとなると難題ですね。
成果を聞く限り進展は0ですか……
こんなに可愛いアリスちゃんから迫られるというのに、羨ましすぎて殺ってしまいそうです」
「進展どころか、感情のツボ突かれて、昨日はお兄ちゃんの顔をまともに直視できなくなるくらい、お兄ちゃんが好きな事を再認されられちゃった……」
「あぁ~、顔を赤くしてもじもじしてるアリスちゃんは反則的な可愛さです。
カザミネさんから頂いたこのカメラという物は本当に便利で助かります」
「あっ、勝手に撮らないでよフランお姉ちゃん」
「お断りします。
アリスちゃんは私の好みど真ん中なんですよ。
そんな子から恋愛相談を受けている私の身にもなったらこれくらいの事許されるはずです」
「それなら仕方ないのかな?
確かに、お兄ちゃんからそんな相談されたらわざと失敗する方に誘導しちゃいそう。
いつも、ありがとうね、フランお姉ちゃん」
「いえいえ、アリスちゃんの頼みならこれくらいの事どうということありませんよ。
さて、今日は何を教えましょうか」
「そういえば、ニダヴェリールでふと思いついたんだけど……………ってできる?」
「ふっふっふっ、こんなこともあろうかと調べておきました。
昔の文献ですから、少々難しいかもしれませんが、そこはいつものようにアレンジで乗り切りましょう」
「流石、今度フランお姉ちゃん好みの子紹介してあげるね」
「それは楽しみです」
side out
おかしい……
今日は晴天、季節も夏から秋に移ろうとしているとろで、まだ薄着でいないと暑いくらいだというのに寒気が止まらない。
こういう時の勘は嫌というほど当たるからな。
今日は可能な限り家から出ないようにしておこう。
「おはようございます」
「おはよう」
いくら、嫌な予感がするとはいえ朝の鍛錬をすっぽかすわけにもいかない。
しかし、不気味なほど何も起きなかったところを見ると何か起きるのは家の中。
「アリスはまだ寝てるのか?」
「いえ、さっきまで朝食作りの手伝いをしてもらっていたはずですが、どこにいたんでしょう?」
何か変な薬が混ぜられている可能性があるな。
「悪いが、これからジン達と一緒に遊びに行く予定だから朝食はいい」
「それは珍しいですね。
そういうことなら仕方ありません、少しもったいないですが捨てておきます」
「ああ、悪いな」
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう、どこに行ってたんだ?」
「ん、お手洗いだけど?」
嘘はついてないようだが……
「あれ、お兄ちゃん食べないの?」
「ああ、これから少し出かけるからな。
今日は外で食べることにしてる」
「そっか、料理の腕が上達してるか見てほしかったんだけどしょうがないね」
「また、今度な」
間違いない、アリスは何かを隠している。
それくらいなら、少し食べるだけで事足りるというのに聞き分けが良すぎる。
つまり、料理自体に何かを仕込んでいるわけではなく、それを回避させ油断させることが目的。
なぜ、こんな朝から腹の探り合いをしなければらないのか……
とにかく、今は一刻も早くここを離れなければ。
「あ、お兄ちゃん」
「どうした?」
動揺するな。
気付いていることを悟られたら終わりだ。
実力行使になれば分が悪すぎる。
「今日、家に居ないなら血を吸わせてほしいな」
っち、これはまずい。
今、一番やってはいけないことはアリスに近づくこと。
何を企んでいるか知らないが、確実に碌なことじゃない。
「どうしたの?
そんなに離れたら吸えないよ」
「──っ、フリッグ!!」
次善の策、それはフリッグの傍にいる事。
2次災害に陥る可能性があるが、下手のことをしようとしてもフリッグがその場で止めてくれる。
「本当に勘がいいね、お兄ちゃんは。
でも、それも織り込み済み、ベルゼム!」
「なに!?」
逃げ道を潰された。
ここに至って、フリッグも何事かと動き始めるがベルゼムが道を阻む。
フリッグなら、数秒で通り抜けることができるがその数秒でアリスは俺に到達してしまう。
ならば、その数秒を稼ぐためには?
迎え撃つ?
アリスと俺の実力差など、火を見るより明らか。
逃げる?
フリッグと距離を取ってしまえば、アリスの思うつぼだ。
説得?
この期に及んで説得に応じるとは思えない。
極限状態で走馬灯のようにこの状況打開する方法が浮かんでは消えていく。
どうして、こんな朝から極限状況まで追い詰められなければならないのか泣きたくなってくる。
「アリス、今日も可愛いな」
「なっ、あ、うぅぅ!?」
我ながら最低のことをやっていると思うが背に腹は代えられない。
アリスが何の捻りもない、真っ直ぐな言葉に弱いことは実践済みだ。
そして、戸惑っているこの隙にフリッグの元へ……
「私の目の前でいちゃつくなんてどういうことですか!」
な…んだ……と……
「よくも、弄んでくれたね……」
顔が赤いところを見ると満更でもないらしい。
すまない、ベルゼム、まさかフリッグが切れるとは予想外だった。
嫉妬全開で殴られたベルゼムは小さくなって伸びてる……
もちろん、それと一緒に吹き飛ばされた俺は見事にアリスの足元だ。
「これで、完成」
照れ隠しのつもりか、いつもより牙が深く刺さっている気がする……
side ミナ
「ふーん、それじゃあ、私たちが旅行に言ってる間バイトしてたわけね」
「いつまでも、無償で泊めてもらうわけにもいかないからな。
幸い、便利な能力があるし、仕事先には困らない」
「律儀ね、まぁ、そういうことなら素直に受け取っておくわ」
「それで、カザミネとの関係は順調なのか?」
「あら、珍しいわね。
リンネがレンのことを聞いてくるなんて」
「さっさと誰かとくっついてもらわないとフリッグが諦めてくれないだろう?
口説き落とすにしても傷心したところの方がやりやすい」
「……まぁ、本人同士が納得しているなら私から言うことはないわ。
でも、フリッグは私の友達でもあるんだから傷つけるような真似はしないでね」
「善処しよう」
フリッグも大変ね……
「ちなみに、進展はないわよ。
一朝一夕でどうにかなる問題でもないし、気長にやるつもり」
「ミナがそのつもりなら私がどうこう言う気はないが、カザミネを狙っているのは君達だけじゃない、後悔だけはしないように」
「それって……」
「む、どうやら何かあったようだ」
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「……その娘だれよ?」
リンネと同じ黒目黒髪、この国では珍しいっていうか、私もレンとリンネ以外見たことないわよ。
肩まで伸びた髪、身長は私より少し低いくらいで、リンネと比べると綺麗というより可愛い部類に入るタイプ。
「お兄ちゃんだよ」
聞き間違いかしら?
でも、この娘が着ている?服はレンの物。
レンは装飾品を全く付けないから他に識別できるものはないのよね。
「あ、でもいまはお姉ちゃんだね。
う~ん、思ったよりアリス好みの容姿でよかった」
語尾に音符でも付きそうなほど弾んだ声ね。
ということは本当にこの娘は……
「ミナ、いまいち状況が把握できないんだが今俺はどうなってる?」
「そうね、私も来たばかりでいまいち把握できてないけど、私の目の前には男はいなくて、見慣れない黒目黒髪の女の子がいるわ」
苦虫を潰した表情、これほど今の表情に合う言葉はないわね。
「で、これはいったいどういうことだ、アリス?」
「それは、お兄ちゃんはもてるから変な虫がつかないように女の子にしてみらどうかなってふと思いついたんんだ」
「言いたいことは分かった。
早く元に戻せ」
「い・や、それにアリスはお兄ちゃんがお姉ちゃんになっても愛せるもん」
「───はぁ、フリ、むぐ!?」
「ちゅ……れろ……ちゅる……ぷはぁ」
呆然、あのリンネですら立ち尽くすほど衝撃的というか展開が早すぎて全くついていけない。
レンに過剰反応するフリッグですら、突然女になったものだから反応が鈍い。
「っ、はぁ、はぁ、なにを……」
「ふふっ、良いよその表情、ゾクゾクしちゃう。
ねぇ、お兄ちゃん、せっかく女の子になったんだし、アリスが女の子の事いろいろ教えてあげる。
癖になっちゃうかもしれないけどね?」
って、こんなところで!?
それ以前に、いい加減に止めないとレンの貞操が
「アリス!」
「おっと、む~、邪魔しないでよお姉ちゃん。
これから、お楽しみだったのに」
「そんな、うらや……本人の意思に反することなんて許しません!」
「でも、お兄ちゃんはもう女の子だよ?」
「そんなことでレンに対する愛は変わりません!
いいから、早く戻しなさい!」
「あはは、鬼さんこちら」
「待ちなさい!」
まるで、嵐ね……
流石に、レンをこのまま放っておくわけにもいかないし
「とりあえず、家来る?」
「……ああ、少し厄介になる」
「ふむ、フリッグは同性でも問題はないらしいな。
一番の問題と思っていたが、これで、後は口説き落とすだけだな」
レンのことは本気でどうでもいいのね……
レンとリンネって似たとこあるから、同族嫌悪かしら?
とりあえず、レンの服をどうにかしないとね。
今のレンに、男物の服は大きすぎてぶかぶかだし、私のだと少し大きいかもしれないけど着れないことはないでしょう。
まぁ、いい機会だしゆっくり休んでもらいましょう。
side アリス
よし、ここまでくれば大丈夫かな
「ようやく、観念しましたか。
さぁ、早くレンを元に戻しなさい!」
「ねぇ、お姉ちゃん、本当に戻していいの?」
「レンが望んでいないなら当然です」
「それじゃあ、お姉ちゃんはお兄ちゃんが女の子になっても愛せる?」
「先程も言った通り、その程度で変わるような想いではありません」
「だよね、でも、ミナお姉ちゃんはどうかな?」
「それは……」
「ミナお姉ちゃんはアリスたちと違って立場がある、女の子を恋人というには立場が邪魔だね。
そもそも、ミナお姉ちゃんは女の子になったお兄ちゃんを変わらず愛せるかな?
もしかしたら、強力なライバルが1人減ってくれるかもしれないよ?
お兄ちゃんの性格上、最後は必ず誰か一人を選ぶだろうし、そもそも、複数なんてアリスたちが許せないだろうしね。
その時、選ばれなかったらとっても悲しいよね。
もし、ミナお姉ちゃんがここで諦めてくれるならその悲しみを受けずに済むんだよ?」
「うっ……」
よし、もうあと一押し。
「それに、お兄ちゃんがいなくなるわけじゃないんだし、ミナお姉ちゃんとは気の合う友達として、これから過ごしていける。
元に戻すのはいつでもできるんだし、少し様子を見るてもいいんじゃないかな?」
「う……ぐっ……」
後は駄目押し。
「それにね、今のアルフヘイムのお兄ちゃんの地位というか立場かな?
それを知ったら、アリスの考えも分かってもらえると思うよ」
「……よ、様子を見るだけですからね」
「お姉ちゃん、大好き」
これでお姉ちゃんが元に戻すことはない、そもそも戻せるか分からないんだけどね。
でも、お姉ちゃんがこちらについてくれるなら、元に戻すか戻さないはアリスの判断のみで決められるし、お兄ちゃんの強力な手駒がなくなる。
ふふっ、すべて計画通り。
さて、ミナお姉ちゃんはどんな反応かな?
急遽、百合な展開! ワクワク"o(・ェ・o))((o・ェ・)o"ドキドキ
……にはなりません ガ━━━━━━━∑(゜□゜*川━━━━━━━━ン!
一応悪戯なので元には戻すつもりです。
まぁ、フリッグもアリスもレンが望めばそのままでも問題なく百合な展開に発展しますが(*ノノ)キャ
もちろんレンにそんな気はありませんのであしからず。
さて、『魔法使いの夜』、エンディングを迎えてしまいました。
実をいうと、届いてから2,3日くらいで迎えていたんですけどね。
早く続きを読みたいけど、終わって欲しくないという矛盾、本を読む人なら分かってくれると思います(ノ_・。)
感想ですが、とりあえず素晴らしかったです!
シナリオは勿論、表現、演出、BGM、どれをとっても良かったです。
でも、型月で一番好きなところはやっぱり戦闘シーン バチバチ...( ・_・)--*--(・_・ )バチバチ...
青子の生き様や出鱈目っぷりには惚れてしまいました。
凛や式、型月の女性キャラはどうしてあんなに格好いいんでしょうか(*ノノ)キャ
これからも型月の作品には期待したいと思います!
それではまた次回(。・ω・。)ノ~☆'・:*;'・:*'・:*'・:*;'・:*'バイバイ☆