つかの間の平穏
改めて思うが神様ってのは本当に人間とは別格だな。
俺が無駄な殺生が嫌いと分かっているからか討伐対象になっている生物以外一匹すら殺すどころか怪我ひとつ負わせることなく無力化してる。
中には俺が倒した狼よりも圧倒的にでかい魔物もこいつの姿を見た瞬間ひれ伏した。
「これが目的の鉱石ですね。
それにしても本当にレンは上達が早いんですね。」
もちろんこいつばかりに戦わせていたわけではなく俺も最低限身を守れるようになるために俺の実力でも戦えるような奴とは戦ってきた。
俺はこいつみたいな圧倒的な力なんて持ってないから殺すしかなかったけどな。
「まぁ、いつも最初だけは跳び抜けるからな。
後半になると結局抜かれるんだが。」
何事もそうだ。
最初は他の誰よりも早く上達するんだが一定以上から先はなかなか上達できない器用貧乏ってやつだな。
それにあくまでも一般人と比べてだ、本当の天才と比べると圧倒的に見劣りする。
実際義妹は本当の天才だったからな。
同じ時期に同じことを始めても料理以外はあいつが圧倒的に上だったからな。
「採掘は終わったな。
これで今日のノルマは終わりだ。
帰って休むとするか。」
「はい。
ところで、よければ料理を教えてくれませんか?」
「別にいいが、突然どうした?」
「やっぱり女として家事はできた方が魅力的と思いますし、レンに頼りっぱなしというのも悪い気がしますから。」
「そういうことなら問題ない。
あくまで一般家庭レベルだが俺が知ってることなら教えてやるよ。」
「ありがとうございます。」
しかし、こいつが料理ねぇ。
別に俺は家事ができようができまいが女として見るときにあまり評価対象には入れるつもりはないができないよりできた方が後々助かるだろう。
side フリッグ
意外と簡単に聞いてもらえましたね。
本当は内緒でレンを驚かせてみたかったんですが私1人でやっても失敗は目に見えてますから変な意地より実益を取ります。
平和な日常が幸せというくらいです。
きっと、レンだって家庭的な女性は嫌いなわけはないでしょう。
少しでもレンの好みに近づけるように日々努力をしましょう。
レンは長いと言ってましたが私にとってはたった百年です。
私が生きてきた百分の一しかありません。
その間にレンを落とさないとレンは間違いなく死んでしまいますからね。
side out
相変わらず物理的に突き刺さる視線を背に受けながらホームギルドで仕事の報告。
ノルマの三件をこなし金貨13枚貰った。
仮住居の家賃は月金貨2枚だからそれを差し引いても金貨11枚。
これだけあれば最低限の生活必需品は揃えられるだろう。
そうと決まれば早速
「少し話をしたいんだが、いいか?」
これは予想外な客だな。
あいつの兄が俺の所に訪ねてくるなんて。
「勧誘のつもりなら聞く気はないぞ。」
「違う。
それはあくまでミナが言ってることだ。
兄として叶えてあげたい気持ちはあるがお前たちの意思を尊重せずに無理強いさせるつもりない。」
あいつの兄とは思えない殊勝ぶりだ。
「要件と言うのは先日の勝負のことだ。
単刀直入に言おう、いかさまをしていなかったか。」
これは驚いた。
まさかこいつが気付くとは。
考えることは妹担当だと思っていたがこれは認識改める必要がありそうだな。
「証拠はあるのか?
くだらない濡れ衣を着せられても迷惑なんだが。」
「これでも俺はそこそこ腕の立つハンターだ。
ギルドの仕事でもかなりの魔物を狩ってきた。
その仕事で毒を使うことも少なくはない。
話を戻すがあの時2つの粉からは同じ痺れ薬の臭いがしていた。」
なるほど経験談から来るものだったか。
さすがここまでは予想できなかったが言い方が悪かったな、そんな直球じゃ俺から真実は引き出せない。
「気のせいじゃないのか?
現に俺はあの時何ともなかった。
それとも何か魔法を使ったような気配でもあったのか?」
「いや、そんな気配はなかったがお前の妹ならそれくらいのことできても不自然ではない。」
残念ながら的外れだ。
その方法でも可能だったがあの勝負は俺とあいつのものだ。
そこに部外者を入れるような無粋な真似なんてしない。
「確かにこいつは強いが治癒系統は苦手なんだ。」
嘘は言っていない。
こいつは確かに治癒系統の魔法、こいつの場合は神術だが、本当に苦手な分野らしい。
それでも神が行使する術だ。
人が行使する魔法とは比べ物にならない効力だ。
「そうか。
疑って悪かったな。
お前に負けた後、ミナがふてくされてるから慰めになるかと思ったんだが俺の見当違いだったようだ。」
本当に見当違いだ。
そもそもあの勝負はいかに相手を騙すか見抜かの勝負だ。
運の問題なんてものは一切関与していない。
だからこそふてくされてるんだろうが。
しかし、こいつはなかなか良い奴だ。
あの女のことがなければ是非お近づきになりたかった。
「あれは俺の運が良かっただけだ。」
「そうか。
もう一度謝礼させてくれ。
いろいろと迷惑をかけてすまなかった。
どうかミナのことは恨まないでやってくれ。」
「元々そんなに気してない。
もっともあいつが約束を破らなければだがな。」
「しっかり言い聞かせておく。
時間を取らせてすまなかった。」
「ああ、それじゃあな。」
ふむ、半信半疑と言ったところか。
自分の感覚を信じていいのか迷ってる。
そもそも臭いだなんて不確かなものだし、証拠能力は皆無だからな。
そこから攻められたところでかわすのは容易い。
それにあいつはこういう騙し合いには向いていないみたいだしな。
side ジン
気のせいか・・・・・
確かにあの時、同じ痺れ薬の匂いだった。
しかし、調べてみても確かに痺れ薬と甘い粉両方購入している。
だからと言って甘い粉を使ったと断言できないがなによりあいつが何ともなかった所を見るとやはり俺の気のせいだったのか。
「ミナ、少しは落ち着いたか?」
「ごめん兄さん。
もう大丈夫。」
なんとか大丈夫そうだな。
まぁ、二分の一を当てる勝負で負けたんだから自分の運のなさを嘆くのは分かるがな。
「今回は運が悪かっただけだ。
あいつらとは約束したからもう駄目だがまた他に見つければいいだろう。」
まぁ、男なんてミナに近づけさせはしないがな。
「ううん。
あれは運なんかじゃない。
あいつはどうやったか知らないけど何かトリックを使ってるはずだよ。
表向きは二分の一の勝負だけど、実際は騙すか暴くかで勝敗が決まってたんだから。」
「だがあいつは運が良かっただけだって言ってたぞ。
妹さんは治癒系統の魔法は苦手だと言ってたし、あの場で魔法を使った痕跡はなかった。」
コップは変えたし、水だって入れ直した。
薬は違和感はぬぐえないが水に溶かしたのは俺だ。
何か仕掛けを打つような機会なんてなかったはずだ。
「なんにせよ、もう過ぎたことだ。
お前が負けるなんて珍しいがそれも人生だ。」
「うん。」
もうミナはあの2人関わることはできない。
だが、またあの2人とは縁がありそうな気がするな。
side out
良い買い物だった。
金貨11枚の内6枚程度である程度そろえることができた。
買ったものの中には魔力を通すだけで火を起こす魔石なんかもある。
だいたい1週間程度で使い物にならなくなるらしいが火炎放射気を危なげに使うよりずっとましだ。
そういえば俺にも魔力は微量だが存在するらしい。
とても魔法を使えるような量じゃないがこの魔石を使うくらいなら問題ないそうだ。
それに今日は時間があったから調味料や香辛料もそろえることができた。
これで食事には困らない。
そしてお金をためて仮住居を出れば完全に自立できたことになり平穏な日常を取り戻すことができる。
「レン、レン!!
ここはどうすればいいんですか?」
そういえば今こいつに料理を教えているんだった。
今までまともに食ってなかったやつが料理を作ったら真っ黒焦げのなにかができたり食べただけで吐きそうになるといったお約束の展開にはならず、むしろちょっと教えただけである程度1人で出来るようになっていた。
「あ、そこはこうすれば美味くなるぞ。」
「へぇ~。」
それにかなり料理を覚えることに積極的だから説明する方もやる気が出るし、なによりの見込みが早いから手間が掛からない。
そういえば義妹はちゃんと食ってるだろうか?
あの家の両親は共働きだからあんまり家にいないし俺がいなくなってどうしてるんだろうか?
あいつのことだ、なんだかんだで上手くやってるだろう。
あいつは俺が知る限り最高の天才だからな。
「どうかしたんですか?」
「なんでもない。
そろそろ出来上がるな。
皿の準備をしておいてくれ。」
「はい。」
このまま何事もなければいいんだがなにか嫌な予感がする。