ニダヴェリール その⑥ 竜の伝承
「あんまり、僕の部下を苛めないでほしいな。」
「世の中、全員がお前のように理解が良いならこんなことにはならないんだが、世の中そうというわけにもいかないんでな。」
「………やめろ、彼は僕の客人だ。
それに、お前たちが束になったところでその少女には敵わない。」
「助かった、一向に手を引いてくれなくてな。
どうしようか迷っていたところだ。」
「よく言うよ、あのまま壊滅寸前まで追いやっても君にはなんともないだろう?」
「どうだろうな?
とりあえず、人払いをしてくれないか?
あまり大勢に聞かれていい話じゃない。」
「その吸血鬼に頼めば簡単な事だろう?」
「お互い無駄な争いは控えるべきだと思わないか?」
「どうやら、甘さは抜けてないみたいだね。」
ほっとけ……
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「アリス、頼む。」
「何をしたんだい?」
「盗聴されたら困るからな。
簡単な結界を張ったと思ってもらっていい。」
本当は結界なんて生易しいものじゃない。
アリスの『月の庭』をこの部屋に展開したようなものだ。
最早、世界から分離されていると言ってもいい程らしい。
「それで、僕たちにいったい何のようだい?」
「まずは確認だが、『ニーズヘッグ』はリース・キリュスを狙っているってことは間違いないよな?」
「そうだよ。」
「やけに素直に答えてくれるんだな。」
「確認というからにはそれなりに信頼できる情報源があるんだろう?
ここで嘘を言っても僕にメリットがないからね。」
一筋縄ではいきそうないな。
これだけ大きい組織の幹部をこの若さでやってるくらいなんだから当たり前と言えば当たり前か。
「今度は僕の番だ。
僕たち『ニーズヘッグ』がリース・キュリスを狙っていることをどこで聞いた?
それ以前に、なぜ僕たちの潜伏場所を知っている?」
「教える必要はないと言いたいところだが、今回は友好的に行きたいからな。
『スルト』が絡んだ一件、覚えているよな?」
「……そういうことか。」
「恥じる必要はない。
アリスは演技も魔法の腕も超一流だ。
初見で見抜けという方が難しい。」
アリスのことを少しでも知っていたなら、少し隙をついただけで逃がすわけがないと疑問を持ってもおかしくはない。
事実、あの時は逃がすように俺が指示をしておいたんだが、アビスどころかフリュネすらも気づいていないだろう。
「これは、君たちを生かしておくわけにはいかなくなった。」
「だろうな。
だが、お前らが束になったところでアリスに勝てるのか?
さらに言えば、アリスより強いフリッグもいる。
武力で勝てなければ、俺の身近な人物を人質にとるか?
それは、アルフヘイムで失敗してる以上、次は望めない。
お前らが裏でつながっている王族から圧力をかけさせるか?
悪いが、それは俺にとって絶好のかもでしかない。
俺がここにきている時点でお前らが俺を脅かすことは不可能だ。」
「まったく、本当に厄介な相手だよ君は……」
「そう、邪険にするな。
今回の話はお前たちにとっても悪くない話だ。」
「一応聞いておこうか。」
「俺と手を組まないか?」
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「相変わらず、お兄ちゃんのやることは傍から見たら馬鹿なんじゃないかって思えちゃうよ。」
「露払いには人海戦術が取れる組織が適任だろう?
それに、今後の為にも繋がりは持っておきたかったしな。」
「お姫様も可哀想に。
これから、骨の髄まで絞られるんだろうね。」
「そう、甘い相手でもないさ。
それよりも、はっきり敵と分かってる相手より、影で何をやっているか分からない味方の方が怖いと思わないか?」
「ふふっ、そうだね。
でも、お兄ちゃんの周りには素直な人ばかりだから安心だね。」
「……まったくだ。」
side リース
『…こっちだ、こっちにこい』
また、この声……
今までは、抜け出せてもすぐに捕まってしまって分からずじまいでしたが、アリスさんがいてくれれば、辿り着くことができるかもしれない。
「リース、またその本読んでるの?」
「うん、あの声のことが少しでもわかるかなって。」
「確かに、私とリースは伝承に出てくる竜と同じ目を持ってるけど、過去にも同じ目を持っている人はいるし、それも私たちと同じ血筋の人で何ともなかったらしいわよ。」
そう、私たちの血筋は伝承にある竜の血が流れていると言われています。
この蒼い眼が伝承に存在した竜と同じ眼で、その眼を持って生まれた子は竜の力を引き出せるとそうです。
「でも、私達に特別な力なんてないじゃない。
過去の人もそんなことはなかったみたいだし、きっと、その声とは関係ないわよ。
だから、あんまり抜け出して心配かけるんじゃないわよ。」
「ごめんね、ミーア姉さん。」
「出ていくときは、ちゃんと言いなさいよ。
別に、1人で行く必要なんてないんだから。」
「うん、次からそうするね。」
「………もう、何度目かしらねこのやり取りは?」
「………ごめんなさい。」
次こそは、この声のことを突き止めてきますから。
もう、1回だけ抜け出します。
side out
「それじゃあ、行ってくるね。」
「ああ、気を付けるんだぞ。」
「うん、上手くやるから後で褒めてね。
それと、お兄ちゃんはお姉ちゃんから絶対に離れないように。
協力関係だけど向こうは悪の組織なんだから。」
「分かってるよ。」
死なないとはいえ、誘拐の危険性は十分にあるからな。
俺の立ち位置を安定させるために失敗は許されない。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「アリスはもう行ったんですか?」
「アリスから何か聞いてるか?」
「いえ、何か用事があるからレンのことをよろしくとしか……」
「そうか、それじゃあ今日はよろしく頼む。」
「妾に勝ったのじゃ。
優勝以外は認めぬぞ。」
「どっから現れたんだ……」
「気にするでない。
そんな事より、そろそろレンの出番じゃろう。」
「そうだな、それじゃ行くか。」
今回の件はフリュネに知られるわけにはいかない。
フリッグを信用していないわけじゃないんだが駆け引きなんかまるっきり駄目だからな。
うっかり口を滑らされたら面倒だし、黙ったままの方がいいか。
side アリス
「今日はよろしくお願いします。」
「任せて、きっちり守ってあげるから。」
「頼もしい限りです。
では、早速ですが行きましょう。」
「うん、好きに動いていいよ。
リースの気配は覚えたから星の裏側にいても見つけてあげる。」
「す、すごいですね……」
「まぁね、それより移動している間暇だからお話しよ。」
「……そうですね。
アリスさんはこの街に伝わる伝承をご存知ですか?」
「目が蒼い竜がいたってことくらいかな。
それと、敬語じゃなくてもいいよ?
アリスみたいな子供に敬語なんておかしいでしょ?」
「それでは、そうさせてもらいます。
では、この街に伝わる伝承ですが………」
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「そして、その竜は深い眠りについたそうです。」
要点だけまとめると、昔々、この土地は今みたいに豊かじゃなく痩せ細っていて、近くの山に住んでいると言われる竜に助けを求めたらしい。
その竜は願いを叶えることができるってことで、藁にもすがる気持ちで竜の元を訪ねたら、あっさりと願いを叶え人々は豊かに暮らすことができるようになった、めでたしめでたしって言う訳にはいかない。
その噂を聞きつけた、人々は次々と竜の元へと願いを叶えてもらうべく訪ね、人の欲深さに絶望し、とある願いを叶えた。
その願いは、とある人物を不幸にして欲しいというもの。
竜はその願いをその人物を中心にその周辺全てに不幸を撒き散らかした。
それまで豊作だった土地が凶作になり、周囲には魔物が増え、伝染病が蔓延し、すぐに竜を討伐しようとしたんだけど願いを叶える程強い力を持っている竜に敵う筈もなく滅びを待ち受けるしかなかった。
そこに、1人の幼い子供が竜に願いを届けた。
その願いは『家族を助けて』、その純粋な願いに心を静め、その少年に力を与え家族を助けた。
そして、竜は深い眠りにつき、人々は災いを恐れ竜に近づくことはなかった。
「つまり、欲は身を滅ぼすので気を付けようってことだね。」
「でも、願いを簡単に叶えてもらえるなら、私も頼んでしまいそうですけどね。」
「ふ~ん、リースの願いってなんなの?」
「私には双子の姉がいるんです。
私はミーア姉さんに幸せになって欲しいのに、私の事ばっかり構ってくるんです。
だから、私は強くなりたいです。
ミーア姉さんが心配しなくてもいいように、1人でも生きて行けるような強さが欲しいんです。」
「う~ん、その志は立派だけど、1つだけ忠告しておくね。
1人で生きていける強さを欲しいなんて思わない方がいいよ。
アリスはその強さを持っている人を知ってるけど、人として致命的に欠陥がある人ばかりだから。
お姉さんを心配させたくなかったら自分から言えばいいんだよ。
お互いに支えあって生きてこその家族でしょ?」
「………そう…なのかもしれませんね。
アリスは私よりずっと大人ですね。」
「そう?
アリスはただ思ったことを言ってるだけだよ。」
そういえば、全然敬語抜けてないや………
モチベーションが上がらないなーと思っていたら1ヶ月も更新してませんでした><
次はこんなことがなければいいなーと思います。
まぁ、それは気分次第なので気長にお待ちください。
さて、ようやく動き出した物語。
伏線ばら撒いてますが全部回収できるか謎です!
上手くまとめられるか分かりませんが程ほどに頑張ろうと思います。
それではまた次回(。・ω・。)ノ~☆'・:*;'・:*'・:*'・:*;'・:*'バイバイ☆
そういえば、また、レンの元の世界の日常でも書こうかと思っているんですがどうでしょう?