ニダヴェリール その① 三つ巴の戦い
「やけに活気があるが近い内に何かあるのか?」
「うむ、年に1度己が作った武具がいかに優れたものかを示す為、武具を提供し競い合わせる大会があるのじゃ。」
なるほど、作る方としてはいい宣伝になるし、使う方としては高品質の武具を貰える。
両方ともに美味しい話、人が集まるわけだ。
「しかし、それだと腕の差でどうともなりそうだな。」
「それは仕方なかろう。
それを見定める事も職人の質を試される試験のようなものじゃ。」
「まぁ、それで成り立っているのならいいか。」
しかし、見渡す限り冒険者ばかりだな。
当然、荒事が多い冒険者には男比率が高い。
そんな中に女、それも美少女と呼べるあいつらがいれば声を掛けられないはずがないが
「それにしても、本当に誰も寄ってきませんね。」
今回はジンがいるから、他の街より声を掛けられる回数は少ない。
エルフという種族は魔法が得意というイメージだが、この世界では魔法によって身体強化ができ、魔法による攻撃も可能なエルフは数多いる種族の中でも上位の戦闘能力があるらしい。
もちろん、ミナのように魔法特化したエルフもいるがな。
まぁ、確かにエルフが強いというイメージというのもあるが、一番大きいのはジンが美形だからだろう。
それに、アルフヘイムの時期長、非の打ちどころがないな・・
「ジンは大会に出るつもりなのか?」
「あぁ、そのつもりだ。
俺の腕がどこまで通じるか試してみたい。」
ヴァナイヘムの森の民のような脳まで筋肉でできてるような一族と互角に戦えるんだ、フリッグやアリスのような理不尽な存在でもない限り負けることはないだろうな。
「フリッグたちはどうするんだ?」
「私たちは止めておきます。
もし、私とアリスが本気で戦ったらこの街が廃墟と化してしまいますから。」
ミナは・・・聞くまでもなく出ないだろう。
天笠は用事があるとで今回はパスということでいない。
後はフリュネだが
「ふむ、ここのところ政務ばかりで体が鈍っておるし妾は出るとしよう。」
「あんたが出るなんて意外だな。
てっきり、俺に出場させて高みの見物を決め込むとばかり思ってたぞ。」
「うむ、最初はそのつもりだったのじゃが、妾が直々に屈辱を味あわせてやろうと思ってのう。」
こいつを本当に王にしていいのだろうか?
俺は今からでもこいつを王の座から引きずり下ろすためにいろいろ手を打っておくべきなのか?
「言っておくが俺は出ないぞ。「えっ!?」」
なぜ、お前が驚く?
「レン、でないんですか?」
「どうして俺がでなきゃならいんだ・・・・
俺だって戦えないことはないが、それは銃なんてある意味反則的な武器を使ってるからだぞ。」
剣や槍も使えないことはないが、付け焼き刃でフリュネに太刀打ちなんてできるはずもないしな。
「うぅ、それはそうですけど・・・・」
この反応は何か吹き込まれたな。
「ねぇ、お兄ちゃんでてみようよ。
何事もやってみないと分からないよ。」
満面の笑みでそう告げるアリス。
この場面だけをみれば純粋な子供が励まそうとしているようにしか見えないだろう。
だが、あのアリスが何の裏もなくこんなことを言うはずがない。
「そ、そうですよ。
もしかしたら、フリュネにだって勝てるかもしれないじゃないですか!」
・・・・・はぁ
「分かった、出るからおちつけ。」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だ。」
あのまま行ったとしても、アリスが逃げ道を潰してくるだろうし、そうじゃなくてもフリッグにここまで言われたらそのうち俺が折れることになるだろうから、無駄な抵抗は止めておこう。
「それじゃ、アリスはお兄ちゃんを勝たせるために大会が終わるまで一緒に行動するね。」
「うぅ、わ、わかりました。」
「私もいいわよ。
そのかわり条件があるわ。
もし、兄さんが優勝したらレンを1週間ほど借りるわよ。」
「アリスはいいよ。
優勝するのはお兄ちゃんだもん。」
「ふっ、そこの甲斐性なしが妾に勝てるわけなかろう。
フリッグよ、大船に乗ったつもりでおるがよい。」
おい、どうして俺が景品なんだ?
他の皆もそれで納得するなよ・・・
それと、誰が甲斐性なしだ
「それじゃ、見て回るのは明日からにしましょう。」
side フリッグ
「アリスが何を企んでおるか知らぬが、妾がレンを倒せば問題なかろう。」
「はい。
そして、傷ついたレンを私が癒して、一気に落として見せます!」
落ち込んでいるときに優しく励まされれば、レンが私を見る目も変わるはずです。
その為にも、フリュネには必ず勝ってもらいます。
「行きましょう。
時間の限り、神術を教えます。」
アリスが何を企んでいても、神力がある私たちが勝ちます。
side ミナ
「それにしても、随分と大見得を切ったがはっきり言って、俺じゃあの姫さんには勝てないぞ。」
「そんなこと百も承知よ。
でも、それはフリュネに神力があるからで、それさえ封じてしまえば兄さんが勝てるわよね。」
「そういえば、こんな風に2人で話すのも久しぶりだな。」
「えぇ、最後はレンと勝負した時かしらね。」
私はレンが好き。
だけど、私は負けっぱなしで黙っていられるほど御淑やかじゃないのよ。
「兄さん、今度は勝つわよ。」
「あぁ、もちろんだ。」
side out
「で、いったい今度は何を企んでるんだ。」
「開口一番がそんな言葉なんて酷いなぁ。
そこは、『一緒に頑張って優勝しよう。』くらいのこと言ってほしかったな~」
駄目だ、アリスが簡単に話すはずがない。
そして、熱くなればアリスの思うつぼだ。
「分かった、とりあえず何を企んでいようがそれは後にしよう。
アリス、俺に勝算はあるのか?」
「それはもちろんだよ♪」
敵に回ると厄介極まりないが、味方だとこれほど頼もしい奴はいないだろう。
・・・・・本当に味方なのか分からないがな。
「ねぇ、お兄ちゃんは人間なのにどうして超人的な動きができると思う?」
「それはフリッグの加護があるからだろ?」
ちなみに、この世界にも人間はいる。
だが、人間の戦闘の力は魔力によって比例するらしい。
だから、俺のように魔力が低い人間は他の種族に比べ大きなハンデを負っていることになる。
「じゃあ、どうしてお兄ちゃんはそんなに弱いと思う?」
アリスよ、もうちょっと年相応の笑みはできないのか?
こんな歳からそんな妖艶な笑みを浮かべるなんて将来が心配だぞ・・・・