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こうへん

 一大観光地がいつの間にか閉鎖していた事に愕然としながらも、横の看板に目を向けると控え目な小さな文字でこう書かれていた。

『移転しました。神界ツアーのお問い合わせについては0987-654-321までご連絡ください』

 ……セーフ。帰れなくなるかと思った。バッグから携帯魔法電話を取り出し、早速書かれていた番号をプッシュする。するとしわがれた声のおじいちゃんが、ふがふが言いながら電話に出た。多分なんか食ってる。

「もしゅもしゅ。神界ツュアー管理じゅむ局でしゅ」

 バリバリ音させてるし。せんべいか何か? いずれにせよ客相手の電話応対して良い人物ではない気がする。

「あの、神界へと行ってみたいんですけどどうすればいいですか。なんかパンフに書かれていた場所に行ったら移転しましたってなってたんで、魔法電話してみました」

「神界ッュアーは期間限定でしゅたので現じゃいは予定はありみゃせん」

「は?」

 期待を裏切る答えに、思わず間抜けな声を出してしまった。

「パンフレチョにも書かれているかと」

 不意に魔法電話を取り落とし、震える手でバッグから顔を覗かせているパンフレットへと手を伸ばす。この街の観光スポットが網羅されたものだ。読み落としなど――。

(やってしまった……)

 トワイライトツリーの説明の所には米印が付いており、隣には数字の「一」の字が。一番下の小さな補足説明がズラズラと書かれている部分をよく読んでみると確かに、『神界ツアーは期間限定です』

 さぁどうしよう。帰る術が消えた。準備に準備を重ねてこの帰還方法を調べ上げたのに、それでも準備不足であった。こうなったら他の方法を意地になって探すか、この街で永住するか覚悟を決めなければならないかもしれない。

(でもなぁ、帰ってもアレだしね)

 ろくでもない仕事に、上司(行方不明)に部下。安い時給で、スーパーぜうすの豚挽き肉。お昼は食パンをレンジでチン。100ゴッドのチョコクリーム塗ってはい、いただきます。何コレ。あーもー、私だってオフィス街のOLなんだから優雅にバジリコ乗ったパスタとか食べに行きたいってのー!

 ただ一つだけ気がかりなのは、たった一人の肉親のお母さんの事。寂しいなぁ。元気にしてるかなぁ。やっぱり、帰る方法を探そう。きっと何かあるはずだよ。

 と、一人道端で意気込んでいると、買い物袋を両手に提げたどこかのおばちゃんが変な人を見るかのようによそよそしい態度で目の前を去っていった。うぅ、何かに負けた気がする。何かに。

 とりあえず、一つ考えられるのは、この世界も神界と同じく縦階層で成り立っているはずだって事。要するに、世界の上に更に世界が存在していて、それが延々と続いているという可能性。今いる世界は、上の階層の世界によって支配されている。そして一つ下の世界を支配している。私の元々住んでいた神界がどの階層にいるのかは分からないけど、実際そんなに高位でもないような気がする。

 だって、レベル低い世界だし。神なんてやってる事、人間と変わらないし(ていうか一応私も、人間から見たら神様なんですよ)。神って、人間と同じでただの種族の一つに過ぎないしね。体の造りだって大して変わんないらしいよ。要するに柴犬と、ヴァルハラ犬の違いみたいなもの。って犬と比べてどーすんだ私。惨めになってきた。

 まとめると、神界が人間界をコントロールしているように、こちらからも神界へと入り込める余地はあるはず。現に九十歳のばるきりーは人間界へ行ってしまったのだから、生身の神が世界を行き来する方法も出来るでしょ。やるべき事は一つしかない。神界を操っているその現場を見つける事。こちらにも管理者が必ず居るはず。



 不思議な事に、持ってきたお金がこの世界でも通用した。私達の神界ではこの通貨を『ゴッド』と呼んでいるのだけれども、こちらでは『ディメンション』と呼んでいるみたい。しかも使っている紙幣も何故か全く同じもの。故に店で出しても全く不審がられるどころか、当たり前に受け取ってもらえて品物を手に入れる事が出来る。

 やっぱり、この世界が神界の創造主なんだ。神界はきっとこの世界が元になって出来てる。だってこっちには『スーパーあるてみす』とかあるよ? 軽く覗いてみたらやっぱり豚挽き肉安い。買っ……うわけにはいかないってば。家に帰れるかどうか保証無いんだし。歩けど歩けど神界と似たような街並みが続くけど、ここは別次元なんだよね……。

 夜にはならないけど、時間だけはちゃんと経過しているみたい。時計だけはもう夜の七時になってる。でも景色は夕方のまま。飲み屋の明かりが点いていて、中からはテレビの明かりと男達の酒盛りの声が聞こえる。

 観察すれば、神界との類似点は数え切れないほどあった。一気に自分の世界が恋しくなってくる。

(はぁ、こんな世界来なければ良かったなぁ)

 数時間歩き回った後、繁華街の中にインターネットカフェを見つけた。帰る手段が見つからないものかと、席に着くなりコンピュータで検索を始める。それらしいキーワードを打ち込んでいく。

(これ……)

『求人情報ぽっとぺっぷぁー』

 どこかで見たような名前がスポンサーサイトの所に出ている。それに惹かれるようにして手が動いた。

『アルバイト・パート。本物の神界の管理者、やってみませんか? 誰でも出来る簡単なお仕事です。学生さん、パートさん集まれ! 週に一・二日、半日しか出れない方でもオッケーです』

「バカにしてんの? これ」

 何だか神界が軽い存在に思えてくる求人の内容であったが、何とか解決の糸口が見えてきたようであった。



To be continued. next the 4th chapter.

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