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ちゅうへん

 頭の中では、鈴木の存在が薄れ掛けてきていた。窓の加減で彼の髪が橙色に照らされ、炎のように輝いて映る。そんな後ろ姿を見て、一人心臓が高鳴り始めた。

(あ、あれ、何で私こんな興奮して――)

「なぁ」

 イケメンはポケットに手を突っ込んだまま振り返り、同じカウンターの離れた席に控え目に座る私へと瞳を向けた。その眼差しは目尻が親しみのある柔らかなもので、どこか女性的なイメージも漂っている。

 そんな中、ラーメン屋の主人は脇目も触れずせっせとつけめんを作っている。

「人の事見てんじゃねえよ、おばさん」



 私の中で何かが砕けたのを感じ、足早にラーメン屋を後にした。永遠に続く夕暮れの中、子供達が無邪気に駆け回っている公園を見つけて自然と惹かれるように入っていった。ベンチに腰を下ろし、溜息を一つ漏らす。

 公園を我が物顔で跳ねている子供達。広場中央に鎮座しているゴブリンみたいなモンスター物体Ⅹの銅像の周りで、陰に隠れたりしながら勢い良く水風船をぶつけ合っている。しかも中身は得体の知れない真っ黄色い液体で、物体Ⅹは見る見る内にべっちゃりとイエロープリンスになっていく。何その液体。マスタード? 子供のおもちゃにしてはレベル高すぎない?

 お願いだからこっちにまで投げないでね。別に物体Ⅹが黄色レンジャーになっても私は構わないから。ていうか、マジそれ器物損壊。学校に通報されるよ。

 一体こんな異世界にまでやってきて私は何をやっているのだろうか。どっかの男にはおばさんとか言われるし。確かに最近、肌が水を弾かなくなったけど。

 いっその事もう帰ろうかな、疲れたし。鈴木部長なんかもう一生、九十歳のばるきりーとちゅっちゅして、ぱこぱこしてればいいよ。

 あぁ、お母さんの作ったみそおでんが久しぶりに食べたい。帰っちゃおうかな。その気になればすぐに帰れちゃうんだから。簡単なんだからね。ちゃんと帰る方法も下調べした上で来てるんだから。

 トワイライトツリーの頂上から神界に帰れる事はとっくに調査済みなんだからね。

 ま、帰ったら新しい仕事でも探そうかな。いつまでも神様なんかやってらんないよ、自給安いしさぁ。しかもろくな男が居やしない。大体、今の人間界のイベントスケジュール立てやってんのって全部私なんだよ。元々は鈴木部長の仕事だったのに。あの人もあの人で世界崩壊イベントばっかりやりたがるからスケジュール組み直すの大変だったけど。

 特に最近は忙しいから、私は大まかなスケジュール立てだけして、細かい調整を仕事の出来ない田中にやらせている。ばか丸出しな彼は、やはりスケジュール調整も下手くそだ。気温や天候の管理もまともに出来やしない。夏が終わったってのにいつまでもだらだらと暑い日を続けたり、次の日から思い出したように急に冬の気温にしたりとかさ。そんな事やってたら人間達死んじゃうでしょうよ。あぁもう、人さえ足りてればさっさとクビにして追い出しちゃう所なのに。

 お陰で、人間界での生活バランスが乱れ始めてる。気候がおかしいせいで作物が育たない状況になってるみたい。田中ばかすぎる。いつかころす。

 んー、まぁ鈴木部長が居ないせいで忙しいのは事実だけど、あの人が居ないから二○十二年の世界崩壊イベントが起きなくなったのは良い事ね。

 いずれにせよ、もうあんな仕事をずっと続ける気力は無い。時給1000ゴッドなんて今時無いっての。人に話したら笑われちゃう。



「あれ」

 街中パンフレットに書いてあった『秘境トワイライトツリー』のあるべき場所には工事中看板が立っており、『大型ショッピングセンター建設予定地』と書かれていた。

「トワイライトツリーは……?」

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