オコちゃんとニコちゃん
ひだまり童話館「またねの話」参加作品です
よろしくお願いします
いつものように園バスに乗ったオコちゃんがいつもの座席に座ろうとすると、そのとなりに見慣れない子が座っていました。
一番小さいひよこ組のオコちゃんよりも、からだが小さいキツネの子でした。みんなと同じようにちゃんと幼稚園の園服を着ています。
(キツネさんもようちえんにいくのかしら)
オコちゃんがキツネの子をジッと見つめたまま立っていると、先生が言いました。
「オコちゃんはやく座ろうね。そのお友だちはニコラス君よ。今日からひよこ組のお友だちなのよ」
「うん」
オコちゃんはちょっとドキドキしながらも、小さな園バスのイスに座りました。ニコラス君というキツネの子は前を向いて前の手すりをギュっと握ったままでした。
「お、おはよ、にこらすくん」
先生にはいつも、お友だちに挨拶するように言われていますから、オコちゃんは勇気を振り絞ってキツネの子に挨拶をしましたが、キツネの子はちょっと耳をピクっと動かしただけで、オコちゃんの方を向きませんでした。
ちょっとがっかりしたような、でも安心したような気がして、オコちゃんはイスの前の手すりを握りました。
幼稚園に到着してバスから降りる時、ニコラス君は先生に抱っこされていました。初めての幼稚園だと泣いてしまう子もいますが、ニコラス君は泣いていませんでした。でも、きっとすごく緊張しているのでしょう。自分からは全然動こうとしませんでした。
ひよこ組のご挨拶の時も、お遊戯の時も、ニコラス君はジッと小さなイスに座ったままでした。
オコちゃんは、自分が初めて幼稚園に来た日のことを思い出しました。元気なおともだちがたくさんいて、怖くてなかなか慣れませんでした。今でも声の大きな子のそばにいると、ビクっとしてしまうことがあります。
だからきっと、ニコラス君もそんな気持ちなんだろうと思いました。オコちゃんはニコラス君がはやく幼稚園に慣れるために、仲良くしようと思いました。
次の日、オコちゃんは園バスが幼稚園に到着すると
「ニコちゃん、おててつないでいっしょにいこう」
と、手を出しました。ニコちゃんと呼ばれて、ニコラス君はキョトンとしていましたが、自分のことだとわかったのでしょう。小さなふわふわの手をオコちゃんにさしだしました。そして二人で手を繋いでバスを降りて、保育室に入って行きました。
ご挨拶の時も、お遊戯の時も、オコちゃんはニコラス君のそばにいてあげました。お遊びの時には一緒に園庭に出てブランコをこいであげました。ニコラス君は何も言いませんでしたが、オコちゃんのあとをトコトコくっついて歩きました。
時々ニコラス君はよつ足で歩きました。キツネの子ですからその方が自然なのでしょう。小さな子がハイハイしているみたいでした。
それから毎日、オコちゃんはニコラス君のお世話をしました。
ニコラス君はみんなよりずっと小さいのでお遊戯は全然できません。手が小さいので工作やお絵かきはへたくそです。それに口もちょっととんがっているので、お歌も歌えませんでした。それでもオコちゃんがお世話をすると少しずつ、色んなことがわかるようになってきて、時々オコちゃんの方を向いてニッコリしました。それを見ると、オコちゃんもとても嬉しくなってニッコリしました。
オコちゃんは、なんだかニコラス君のおねえさんになったような気がして、もっともっとニコラス君のことが好きになって、お世話をするのが楽しくてたまりませんでした。
ある日、ひよこ組の先生がこんな質問をしました。
「大きくなったら何になりたい?」
みんなは張り切って手をあげて、宇宙飛行士!とかピアノの先生!とかケーキ屋さん!などと言いました。
「オコちゃんは?」
「あたし、しすたーになりたい」
オコちゃんがそう言うと、わんぱくな男の子が大笑いしました。
オコちゃんの通う幼稚園には教会がついていて、シスターと呼ばれる黒い服を着た先生が何人かいます。オコちゃんはその先生たちが大好きだったので、大きくなったらそんな風になりたいと思ったのです。それなのに男の子たちに笑われてしまいました。
「バーカ!しすたーって、おねえさんって意味なんだぞ、しらねーのか」
「おまえ、弟も妹もいないだろうが」
そんなに笑われると思わなかったので、オコちゃんは悲しくなりました。それに、シスターの意味も知らなかったので、恥ずかしくて真っ赤になりました。もうちょっと何か言われたら泣き出しそうです。
男の子たちのからかう声が大きくなってきた時です、ニコラス君が急に唸りました。本当に犬のようによつ足になると威嚇するようにウーウーと唸るのです。
「な、なんだよ、にこらす」
オコちゃんのことを笑った男の子たちが睨むと、ニコラス君は震えながら、オコちゃんに背中を向けて両手を広げて立ちました。オコちゃんのことを守っているのです。
ニコラス君は、オコちゃんがみんなにいじめられていると思ったのでしょう。それでこうして立ち上がってオコちゃんを守ったのです。
オコちゃんは、小さなニコラス君が自分のために立ち上がったのを見てビックリしました。それ以上に心がぎゅうと熱くなった気がして、ついに涙が出てしまいました。それでもそれは悲しい涙ではありませんでした。
◇
ひよこ組が終わる最後の日、オコちゃんがニコラス君と園庭でバスを待っていると、大人が二人近づいてきました。
それはニコラス君のパパとママでした。ママはオコちゃんのママと同じような人でしたが、パパはニコラス君と同じような色の髪の毛の色をしている外国の人でした。
「あなたがオコちゃん?ニコラスと仲良くしてくれてありがとうね。ニコラスね、来週お引越しするの。パパの国に行くの。だからお別れにコレ」
ニコラス君のママはオコちゃんにリボンのかかった小さな袋を渡しました。それからニコラス君の背中をトントンとすると、ニコラス君は大きく息を吸いました。
「おこ・ちゃん、ありがと」
たどたどしく、ニコラス君がお礼を言いました。
ニコラス君が言葉を話すのを、オコちゃんは初めて聞きました。だって今までずっと、キツネの口をしていたから、話せるはずがなかったんです。
それなのに今、ニコラス君の口はオコちゃんと同じ口のかたちになって、顔もからだも、普通の人間の子どもと同じようになりました。色の白い可愛らしい男の子です。
「ニコちゃん?」
「うん」
ふたりは小さな手で握手をしました。それは勿論、人間の子どもの手でした。
オコちゃんが弟のように思っていた小さなキツネの子は、人間の子どもになって外国へ行きました。お別れはとっても寂しいことでしたが、オコちゃんはニコラス君のおねえさんになれたことを忘れません。
もしまた会うことがあれば、その時はニコラス君のほうがお兄さんのようになっているかもしれません。
それでもオコちゃんにとって大切な、おねえさんとしての宝物の時間でした。
「またね」とは言いませんでしたが、きっとまた会えると思っています。
これまでひだまり童話館でご一緒してくださった方々、また読んでくださった方、そして何より、ひだまり童話館の運営をしてくださった霜月さん鈴木さんタマ館長、ありがとうございました。




