第30話 契約(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
敵意は、行き詰まると形を変える。
排除できない。
壊せない。
恐怖しても、消えない。
そう理解したとき、人は次の選択をする。
――利用だ。
ゼルが通されたのは、街の地下に設えられた会議室だった。
豪奢ではない。だが、無駄もない。
ここが「話し合いの場」であることだけが、はっきりと分かる。
向かいの席には三人。
顔触れはばらばらだが、共通点がある。
決める側の人間だ。
「感謝している」
最初に口を開いた男は、穏やかな声だった。
「基準が来てから、
魔術は回復した。死者も減った」
感謝。
だが、それは礼ではない。
前置きだ。
「だからこそ――
お願いがある」
ゼルは黙って聞いている。
ノクスは壁際に立ち、介入しない。
この場は、
世界と基準の直接交渉だ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第30話 契約(2)へ続く




