第28話 敵意(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
石が、再び飛んだ。
今度は、
結界の内側からだ。
魔術は通らない。
だが、意思は通る。
護衛が前に出る。
だが、ゼルは手で制した。
「……俺が立つ」
力は使わない。
詠唱もしない。
基準として、
敵意の前に立つ。
空気が、張り詰める。
誰かが、震える声で言った。
「……本当に、
何もしないのか?」
「しない」
その答えが、
逆に恐怖を煽る。
何をするか分からない存在。
だからこそ、
何もしない存在は、
最も危険に見える。
「だったら――!」
誰かが、陣を起動させた。
抑制が走る。
魔力ではない。
世界の拒絶だ。
一瞬、
ゼルの足元が“抜けた”。
だが――
次の瞬間、陣が崩れる。
壊れたのではない。
成立しなかった。
ノクスが、静かに告げる。
「記録。
基準に対する
排除行為、失敗」
ざわめき。
「……なぜ?」
答えは、簡単だ。
排除は、
基準を前提に成立している。
基準を否定する行為は、
基準を認識している証明にしかならない。
ゼルは、
ゆっくりと一歩、前に出た。
誰も、近づけない。
敵意は、
ここで一つの壁に突き当たる。
――排除できない。
それを理解した瞬間、
人々の目が変わった。
怒りから、
諦めと、別の選択へ。
ノクスは、最後に記録する。
《基準:敵意、成立》
《排除:不可能》
《次段階:利用、または封印》
ゼルは、夜の街を見渡した。
敵意は終わらない。
形を変えるだけだ。
拒絶され、
排除されず、
次は――使われる。
それが、
世界のやり方だ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第29話 取引(1)へ続く




