第26話 境界線(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
ゼルは、動かなかった。
代わりに、
ゆっくりと口を開く。
「……俺は、
世界を救う存在じゃない」
ざわめき。
「基準は、
選択を“可能にする”だけだ」
誰も納得しない。
納得できるはずがない。
だが――
それが事実だ。
ゼルは、
一歩だけ、後ろに下がった。
その瞬間、
治癒魔術は、通らなかった。
誰かが、叫ぶ。
誰かが、泣く。
誰かが、地面を叩く。
ノクスは、
淡々と記録する。
《基準:関与範囲、固定》
《救済可能域:限定》
《境界線:確定》
ゼルは、胸の奥が
ゆっくりと冷えていくのを感じた。
助けなかった。
見捨てた。
その事実は、
何をどう言い換えても消えない。
だが――
無限に引き受けることも、できない。
境界線は、
世界のために引かれる。
そして同時に、
基準を
守るためにも。
ゼルは、初めて理解した。
責任とは、
善意ではない。
線を引き、
その外側を背負う覚悟だ。
夜風が吹き、
広場の喧騒が少しずつ遠ざかる。
境界線は、そこに残った。
見えないが、
確実に。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第27話 拒絶(1)へ続く




