第26話 境界線(2)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
広場の端で、
怒鳴り声が上がった。
「おかしいだろ!」
傷だらけの男が、
人々を押し分けて前に出る。
「昨日は助かった!
今日は、なぜだ!」
彼の隣には、
担架に乗せられた別の人間がいる。
呼吸は浅く、
治癒魔術が必要な状態だ。
ゼルは、すぐに分かった。
距離が足りない。
ここに立ったままでは、
世界が“選択を許す範囲”に届かない。
一歩、前に出れば助かる。
だが――
そうすれば、
影響範囲はさらに広がる。
「基準」
ノクスが、あくまで冷静に告げる。
「ここで動けば、
この街全体が
“あなたの責任圏”になります」
ゼルは、拳を握りしめた。
助けられる。
確かに。
だがそれは、
次に救えなかった街を、
はっきりと切り捨てる行為でもある。
男の視線が、突き刺さる。
期待と、
怒りと、
恐怖が混じった目。
「……頼む」
その一言で、
境界線が、さらに濃くなる。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第26話 境界線(3)へ続く




