幕間 まだ、気づかなくていい ―― エリシア・ヴァルディシア
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
新入生の視線は、危うい。
純粋で、まっすぐで、
まだ“選別”を知らない目。
私は廊下の端から、その一年生――
リリア・フェルノアを見ていた。
彼女は、彼を見ている。
測ろうとしていない。
価値を決めようともしていない。
ただ、
違和感をそのまま受け取っている。
それが、どれほど危険なことか。
本人だけが、分かっていない。
学院は、異常を嫌う。
だが同時に、異常を求める。
測れる異常。
管理できる異常。
利用できる異常。
彼は、そのどれにも当てはまらない。
だから――
最初に壊れるのは、
“測ろうとしない人間”だ。
新入生は、
彼を人として見ている。
それは、
学院にとって最悪の視点だ。
「……近づかないで」
私は、心の中でそう告げる。
彼のためではない。
新入生のためでもある。
世界のためだ。
彼に名前がつけば、
彼に役割が与えられれば、
彼は、もう戻れなくなる。
そして同時に、
近くにいる者も、
“同じ枠”に入れられる。
兄は、すでに答えを出している。
理解できないものは、
管理するか、消す。
彼は、
消される側ではない。
だが――
消されるために、
誰かが“理由”になることはある。
新入生の少女は、
その理由になり得る。
だから、警戒する。
染まっていない目は、
最初に割れる。
私は、視線を伏せた。
まだ、気づかなくていい。
知らなくていい。
彼が何者かなんて。
彼自身が選ぶまで、
世界に選ばせてはいけない。
それが、
今の私にできる、
唯一の防衛だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。




