第23話 回廊(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
回廊の最奥。
何もない空間に、
一本の線だけが浮かんでいる。
太くもなく、細くもない。
触れれば消えそうなのに、
確実に“境界”だと分かる線。
ノクスは、そこで立ち止まった。
「ここから先は、
あなた一人で進みます」
「試験か?」
「いいえ」
一拍置いて、
ノクスは言う。
「確認です」
線の向こうから、
声が響いた。
複数の声が重なったような、
性別も年齢も判別できない響き。
《基準に問う》
《あなたは、
世界に“関与しない”という選択を、
今後も維持しますか》
責めでも、脅しでもない。
ただの確認。
ゼルは、少し考え――
正直に答えた。
「……分からない」
動かない選択は、
誰かを救った。
だが同時に、
誰かを壊す前提を
否定できなかった。
「だから、
まだ決めない」
沈黙。
線が、わずかに揺れる。
《確認完了》
《基準:不定》
《観測、継続》
ノクスが、
ほんの少しだけ口角を上げた。
「それでいい」
「いいのか?」
「ええ。
基準が“不定”であること自体が、
最も危険で、
最も価値がある」
回廊の奥で、
新たな扉が開く。
「次は、
あなたが“関与せざるを得ない世界”です」
ゼルは、一歩踏み出した。
学院は終わった。
事故も終わった。
だが――
基準の選択は、
ここから始まる。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第24話 関与(1)




