第23話 回廊(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
扉をくぐった瞬間、
ゼルは「移動した」という感覚を覚えなかった。
距離を越えた感触も、
空間転移に特有の眩暈もない。
ただ――
世界の定義だけが、切り替わった。
足元は石でも金属でもない。
踏みしめれば確かな感触があるのに、
材質を言葉にできない。
天井は高い。
だが、空ではない。
光源は見当たらないのに、
影だけが正確に存在している。
「ここが……回廊か」
「正確には、
“世界の折り目に設けられた観測前室”です」
ノクスの声は、
距離感を失った空間の中で、
不自然なほどはっきりと響いた。
「ここでは、
あらゆる現象が“確定前”の状態に置かれます」
「……俺もか」
「ええ。
あなたも含めてです、基準」
その呼び方に、
ゼルは小さく息を吐いた。
ここは世界の外ではない。
世界が、
測る準備をするために用意した場所だ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第23話 回廊(2)へ続く




