第22話 移送(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
歩みは静かだった。
夜明け前の空は薄青く、足元の石が冷たい。
先導するのは執行官ノクス。
護衛はいるが、武装は最低限。
威圧ではなく、前提で進む。
「移送先は?」
ゼルが問う。
「回廊」
短い答え。
「世界の“折り目”にある施設です。
観測、整理、判断――
その前段階を行う」
「裁かれる?」
ノクスは歩みを止めない。
「裁きません。
裁けないからです」
数歩進むと、景色が歪んだ。
道が、道でなくなる。
方向が、意味を失う。
――世界の回廊。
そこでは、距離は概念に過ぎない。
到着とは、位置を共有することだ。
回廊の縁で、ノクスは振り返った。
「あなたは、力を使っていない。
それでも、現象は収束した」
「存在が、干渉しただけだ」
「それを、世界は“基準”と呼ぶ」
淡々とした声で、事実が積み上がる。
「ここから先、
あなたの“動かない選択”は通用しません」
ゼルは、静かに息を吐いた。
「……選ぶ側になる、と言ったな」
「ええ」
回廊の奥で、扉が開く。
光はない。
だが、逃げ場もない。
学院は、完全に遠ざかった。
ここからは、世界の速度だ。
「行こう」
ゼルは、扉をくぐった。
移送は終わった。
そして――
試験が、始まる。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第23話 回廊(1)へ続く




