第22話 移送(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
移送は、夜明け前に行われた。
学院の正門は開いていたが、
そこを通る者は限られている。
見慣れた石畳の上に、観測局の印章を刻んだ結界が敷かれ、
外界と学院を“別の規格”で分断していた。
「安全確保のためです」
監査官セラフィルの声は、どこまでも丁寧だった。
護送ではない。拘束でもない。
書類上は、保護移送。
だが、選択肢は提示されない。
ゼルは、隔離区域の扉を自分で開けた。
荷物は最小限。
着替えと、何度も読み返した古いノートだけ。
「歩けますか?」
問いかけは形式だ。
歩けるかどうかは、問題ではない。
学院の門をくぐると、空気が変わった。
魔力の流れが“個”を前提に再編される。
ここから先は、学院の論理が通用しない。
馬車は使われない。
空間転移もない。
歩いて、境界を越える。
それが、観測局のやり方だった。
――切り離しは、目に見える形で行う。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第22話 移送(2)へ続く




