第2話 劣等生という安全圏(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
昼休み、
中庭のベンチで一人座っていると、
向かいに影が落ちた。
顔を上げなくても分かる。
アーヴェル・ヴァルディシア。
「なぜ、まだここにいる」
それが、開口一番だった。
怒鳴り声ではない。
静かで、抑えた声。
だが、その奥には、
はっきりとした拒絶があった。
「規則上、在籍しているだけだ」
俺は、事実だけを答える。
「規則か」
彼は鼻で笑った。
「学院は、魔術を学ぶ場所だ
魔術も使えない者が座っていていい席じゃない」
――分かっている。
だから最下位にいる。
だから目立たないようにしている。
「お前がいるせいで、
学院の秩序が乱れている」
その言葉に、
俺は一瞬だけ、息を止めた。
それは、
言ってはいけない一線だった。
だが、反論はしない。
「……そうかもしれないな」
そう答えると、
アーヴェルは一瞬、言葉を失った。
理解できない、という顔。
その視線に、
俺は確信する。
――安全圏は、もう狭い。
最下位という立場が、
守ってくれなくなり始めている。
それでも俺は、
そこから動くつもりはなかった。
まだ、
気づかれてはいけない。
だが――
世界は、待ってくれない。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第3話 新入生の視線(1)へ続く




