第20話 世界が気づく(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
演習場の空気が、限界まで引き伸ばされていた。
同調陣は、いまだ崩れない。
魔力は均一のまま、静かに回り続けている。
中心に立つリリア・フェルノアの呼吸は浅く、
それでも立ち続けているのが奇跡だった。
教師たちは、
「いつ止めるか」ではなく、
「どの段階で壊すか」を計算していた。
そのときだ。
演習場の外周――
誰も立ち入れないはずの結界の向こうで、
一箇所だけ、空間が“沈んだ”。
音はない。
光もない。
ただ、
世界が一瞬、
呼吸を忘れたような感覚。
次の瞬間、
そこに“人影”が立っていた。
灰色の外套。
年齢も性別も判然としない佇まい。
魔力の気配は、ほとんど感じられない。
だが、
見た瞬間に分かる。
――格が違う。
「……まさか」
誰かが、掠れた声で呟いた。
外套の人物は、
結界も、演習場も、同調陣も、
一切見ていなかった。
ただ、
中心に立つ“存在”だけを見ている。
「記録対象、確認」
静かな声。
それだけで、
学院全体の魔術が、わずかに軋んだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第20話 世界が気づく(2)へ続く




