幕間 記録に残らない判断 ―― 学院側/観測者側
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
演習場の異変は、
「事故未満」として処理された。
報告書には、
抑制結界の正常作動、
一時的な魔力乱流、
再発防止策――
そう書かれている。
だが、
会議室の空気は重かった。
「……抑制結界は、
起動していない」
一人の教師が、
声を低くして言う。
「では、
なぜ暴走が止まった?」
答えは、
誰も口にしなかった。
分かっている。
だが、
言葉にした瞬間、
“次の段階”に進んでしまう。
沈黙の中、
卓上の小型水晶が、
微かに震えた。
――学院外回線。
「こちら、観測記録局」
無機質な声。
「先ほどの演習において、
基準値外の安定化現象を確認」
教師の一人が、息を呑む。
「対象は?」
数秒の間。
そして、返答。
「特定中。
ただし――」
一拍置いて、
声は続いた。
「基準点の再浮上と一致」
通信は、それだけで切れた。
誰も、動かなかった。
事故は起きなかった。
だが――
観測は、完了している。
学院は、
もう“当事者”ではない。
次に下される判断は、
ここでは行われない。
静まり返った部屋で、
誰かが呟いた。
「……気づかれてしまったか」
その言葉だけが、
重く、残った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。




