第10話 事故は準備される(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
演習当日の朝。
空は、やけに澄んでいた。
こういう日は、
よくないことが起きる。
直感が、そう告げている。
演習場には、
教師の数が多かった。
見守るためじゃない。
抑えるためだ。
アーヴェル・ヴァルディシアは、
中心に立っている。
落ち着いた表情。
迷いのない動き。
彼はもう、
決めている。
演習開始の合図。
詠唱が重なり、
魔力が集束する。
その瞬間――
空気が、軋んだ。
ほんのわずか。
だが、確実な違和感。
俺は、一歩踏み出しかけて、止まる。
――動けば、
すべてが露見する。
リリアの詠唱が、揺れた。
魔術陣が、歪む。
「っ……!」
教師の制止より早く、
魔力が暴走しかける。
次の瞬間、
世界が、静まった。
音が、消える。
熱が、消える。
流れが、止まる。
――また、だ。
俺は何もしていない。
ただ、そこにいただけだ。
暴走は、
起きなかった。
いや――
起きる前に、成立しなかった。
ざわめきが、遅れて押し寄せる。
「今のは……?」
「抑制結界が――いや、違う」
誰も、説明できない。
俺は、確信していた。
これは、もう“兆候”じゃない。
事故は、
準備された。
そして次は――
もっと分かりやすい形で起きる。
学院は、
引き返せない。
俺も、
引き返せない。
世界が、
そう決め始めている。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第11話 制御不能へ続く




