第9話 兄弟の温度差(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
「エリシア」
アーヴェルは、はっきりと妹を見る。
「私は、世界を守る側に立つ」
それは誓いだった。
名門の血に課された役割。
誇り。
「理解できないものを放置すれば、
犠牲が出る」
「……その犠牲が、
彼や、新入生だったとしても?」
エリシアの声は、震えていなかった。
アーヴェルは、目を細める。
「必要なら」
その一言で、
二人の間に、越えられない線が引かれた。
「私は……」
エリシアは、静かに告げる。
「彼を、
世界の都合で壊させません」
兄は笑わなかった。
怒りもしなかった。
ただ、
距離を取った。
「なら、
お前は私の敵だ」
それは宣言ではなく、
確認だった。
夜風が、二人の間を吹き抜ける。
同じ血を引き、
同じ学院で育ち、
同じ未来を見ていたはずの兄妹。
だが、
向いている方向は、
もう完全に違っていた。
――温度差は、
もう埋まらない。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第10話 事故は準備されるへ続く




