第1話 最下位の席(2)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
「……ゼル・オルディア」
名前を呼ばれた瞬間、
教室に小さな安堵の空気が流れた。
失敗が確定しているからだ。
俺は立ち上がり、魔術陣の前に立つ。
視線が集まる。
期待ではない。
確認だ。
――本当に、今年も使えないのか。
詠唱を始める。
言葉は正確。
発音も、間も、教本通り。
だが――
魔術陣は沈黙したままだった。
魔力が流れない。
光も、熱も、生じない。
ただ、描かれた線だけが床に残る。
「……次」
教師は一瞬だけ俺を見て、すぐに視線を逸らした。
溜め息をひとつ。
記録用の羊皮紙に書き込まれる文字。
【発動せず】
それだけで、全てが終わる。
席に戻る途中、前列から強い視線を感じた。
アーヴェル・ヴァルディシア。
名門貴族の生徒で、二年生でも指折りの成績を誇る男。
そこにあったのは、
単純な侮蔑ではなかった。
苛立ち。
拒絶。
そして――理解できないものを見る目。
俺は目を合わせず、
最下位の席に戻った。
ここが、俺の居場所だ。
少なくとも、
そうであってほしかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第1話 最下位の席(3)へ続く




