第8話 禁書庫の反応(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
「今日は、ここまでだ」
教師の声は、
明らかに緊張を含んでいた。
装置の反応は、
記録不可能として処理された。
いつも通りだ。
“分からないもの”は、
そうやって棚上げされる。
だが、
最後に一つだけ、
誰にも見られない場所で、
確かに浮かび上がった文字があった。
《基準点、再出現》
俺は、それを見ていない。
見ていないことになっている。
地上へ戻る階段で、
教師がぽつりと呟いた。
「……君は、
禁書庫に“嫌われていない”」
嫌われていない。
それは、
好かれている、という意味ではない。
認識されているということだ。
廊下に戻ると、
いつもの学院の音が戻ってきた。
話し声。
足音。
笑い声。
だが、
どれも少し遠い。
俺は理解していた。
禁書庫が反応したという事実は、
学院だけの問題じゃない。
記録されない反応ほど、
外へ漏れる。
観測者。
古代装置。
世界の裏側。
どこかで、
“何か”が目を覚まし始めている。
最下位の席も、
個別観察対象という立場も、
もう重要じゃない。
――次は、
学院そのものが、
選択を迫られる。
そんな確信だけが、
静かに胸に残っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第9話 兄妹の温度差(1)へ続く




