第37話 捕獲(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
捕獲は、乱暴ではなかった。
縄も、鎖も、術式もない。
ハルバートはただ、一定の距離を保って立っている。
「抵抗は?」
「しない」
ゼルの答えに、追跡官は小さく頷いた。
捕獲とは、押さえつけることではない。
選択肢が消えたことを確認する手続きだ。
周囲の村人たちは、息を潜めて見ている。
助かった命。
差し出された感謝。
その中心で、捕まる者。
誰も声を上げない。
正義がどちらにあるか、分からないからだ。
「これより、配置工程に移る」
淡々とした宣告。
その言葉で、世界の空気が変わる。
見えないが、確実な“向き”が生まれた。
基準を、どこへ置くか。
世界は、もう決めている。
ゼルは空を見上げた。
逃走は終わった。
だが、敗北ではない。
これは――
次の段階への移行だ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第37話 捕獲(2)へ続く。




