第36話 救済の代償(2)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
ゼルは、動かなかった。
だがそれは、見捨てたという意味ではない。
動く前に、理解しようとした。
ここで助ければ、
この村は救われる。
だが同時に、
基準は“配置される”。
配置されれば、
別の村は救えない。
別の事故には、間に合わない。
「……選ぶってのは」
呟きは、誰にも届かない。
基準の関与は、
奇跡ではない。
回数制限のない救済でもない。
一つ助けるたびに、
次の救済が遠ざかる。
それが、代償だ。
ハルバートは黙っている。
止めない。
促さない。
「判断は、お前のものだ」
老人の胸が、大きく上下した。
苦しそうな息。
ゼルは、ゆっくりと歩き出した。
逃げる方向とは、逆に。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第36話 救済の代償(3)へ続く。




