第36話 救済の代償(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
村は、静かだった。
騒ぎも、悲鳴もない。
それが、かえって異常を際立たせている。
倒れているのは老人だった。
疫病だと、すぐに分かる。
進行は早く、治癒がなければ夜までは持たない。
周囲の人々は、ゼルに気づくと道を開けた。
期待の視線。
だが、声は上がらない。
逃走中だということを、彼らも知っている。
「……ここで助けたら?」
ゼルの問いに、背後のハルバートが答える。
「捕獲する」
即答だった。
迷いも、感情もない。
「規定では、
逃走中の基準が関与した場合、
即時配置に移行する」
つまり――終わりだ。
逃走は打ち切られ、
指定よりも厳しい“置き場所”が与えられる。
老人の呼吸が、さらに浅くなる。
助ければ、捕まる。
助けなければ、死ぬ。
その二択は、
今までで一番、重かった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第36話 救済の代償(2)へ続く。




