第35話 追跡者(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
ハルバートは、距離を詰めない。
だが、離れもしない。
逃げれば、追う。
立ち止まれば、待つ。
「今は、
走らせてやってる」
その言葉に、ゼルは笑った。
「余裕だな」
「余裕じゃない。
時間を使ってる」
時間。
それは、基準にとって
最も奪われやすい資源だった。
救えない時間。
選べない時間。
世界が、次の枠組みを組み上げる時間。
「いずれ、お前は立ち止まる」
ハルバートは、断言する。
「人を見捨てられない。
線を引けない。
だから、必ず戻る」
ゼルは、反論しなかった。
否定できないからだ。
追跡者は、敵ではない。
だが味方でもない。
世界が基準を理解した結果、
生まれた存在。
ハルバートは、最後に一言だけ告げた。
「逃げろ。
逃げてる間は、
まだ選べる」
その言葉を残し、
彼は距離を保ったまま歩き続ける。
追跡は始まった。
だがそれは、
捕まえるためではない。
選択肢を削るための追跡だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第36話 救済の代償(1)へ続く




