第35話 追跡者(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
男は、名乗った。
「追跡官。
名はハルバート」
肩書きの方が先に出たことが、すべてを物語っている。
個人ではない。
役割だ。
武器は持っていない。
だが、立ち方に無駄がなく、距離の取り方が正確だった。
魔術師でも、兵士でもない。
それでも、ゼルは直感的に理解する。
――こいつは、分かって来ている。
「逃げる理由は分かる」
ハルバートは、追いかけていない。
一定の距離を保ち、歩く速度を合わせてくる。
「指定は檻だ。
罰則は鎖。
基準が装置になる」
ゼルは、足を止めた。
「……理解してるなら、
なぜ追う」
ハルバートは肩をすくめる。
「理解と役割は別だ」
その一言が、重かった。
彼は敵意を持っていない。
拒絶もない。
あるのは、任務の正当性だけだ。
「俺は捕獲する。
縛るためじゃない。
配置するために」
配置。
それは、指定よりも冷たい言葉だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第35話 追跡者(2)へ続く




