第34話 逃走(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
自由は、長く続かなかった。
背後で、空気が変わる。
魔術ではない。
制度でもない。
人の気配だ。
「基準。
止まれ」
低い声。
落ち着いた足音。
追ってくる者は、走っていない。
ゼルは振り返る。
そこに立っていたのは、
武装のない一人の男だった。
「逃走は想定内だ」
男は淡々と言う。
「だから、次は装置じゃない。
人間を出す」
ノクスの言葉が、脳裏をよぎる。
――次は、合意ではない。
世界は学習していた。
基準を縛れないなら、
理解して追う者を使う。
ゼルは悟る。
逃走は、終わりではない。
これは――
次の段階への移行だ。
「……来るか」
問いではない。
確認だ。
男は、わずかに口角を上げた。
「捕獲だ」
その言葉と同時に、
世界は、追う側と追われる側に分かれた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第35話 追跡者(1)へ続く




