第34話 逃走(2)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
逃げる。
その言葉は、弱さのように聞こえる。
だがゼルにとって、それは拒否だった。
装置になることを。
指定の一部になることを。
夜明け前、指定区域の境界は最も薄い。
監督官の巡回も、結界の感度も下がる時間帯。
ゼルは、何も準備しなかった。
力も使わない。
計画も立てない。
基準として、
成立しない場所へ歩くだけ。
境界に足を踏み出した瞬間、
監視用の術式が反応しかけ――止まった。
記録が、成立しない。
追跡が、開始できない。
「……やっぱりな」
制度は、基準を前提に作られている。
その基準が、制度の外に出ることは、
想定されていない。
空気が軽くなる。
魔術の気配が、急に遠ざかる。
ゼルは、初めて指定の外へ出た。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第34話 逃走(3)へ続く




