第34話 逃走(1)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
指定は、守るための線だと言われていた。
だが日を追うごとに、ゼルの中でその意味は変わっていく。
線は、守るものではない。
閉じるものだ。
罰則の運用が始まってから、指定区域の内側では事故が減った。
数字は改善し、報告書は安定を示す。
だが同時に、区域の外側で起きる出来事は「記録対象外」として処理されるようになった。
助けを求める声は、届かない。
正確には――届かないことにされる。
「……ここにいれば、世界は静かだ」
ゼルの呟きに、ノクスは否定しなかった。
「静かさは、成功の指標です」
成功。
その言葉が、胸に刺さる。
基準がここに留まれば、
世界は管理できる。
だがそれは、
救えるはずだった場所を、最初から切り捨てるという意味でもある。
「このままじゃ、
俺は“必要な範囲”に
配置されるだけだ」
答えは、もう出ていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第34話 逃走(2)へ続く




