第32話 違反(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
助けたはずなのに、胸の奥が重い。
達成感はない。
代わりに残ったのは、確信だった。
ノクスが淡々と告げる。
「違反は、罰の起点になります。暴力ではありません」
罰とは、殴ることではない。
拘束し、削り、選択肢を細くすることだ。
監視が増える。
記録が増える。
次の指定は、必ず厳しくなる。
それでも、人々の期待は消えない。
むしろ強まる。
「次も、だよな」
「助けられるんだろ?」
その視線が、ゼルを縛る。
善意でできた鎖は、最も外しにくい。
基準は理解した。
違反は一度きりでは終わらない。
救えば救うほど、世界は学習する。
――こうすれば、動く。
――こう縛れば、留まる。
違反とは、始まりだ。
世界が基準を
より強く制度に組み込もうとする合図。
ゼルは夜空を見上げた。
次は、必ず来る。
そして次は、
今日よりも重い選択になる。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第33話 罰則(1)へ続く




