第31話 指定(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
子どもが、
区域の外で倒れた。
治癒が、間に合わない距離。
人々が、
一斉にゼルを見る。
「……行かないのか?」
その問いは、
責めではない。
確認だ。
ゼルは、
ノクスを見る。
「行けば?」
「任務違反として、
次の指定が
より厳格になります」
つまり――
助けても、
縛りは強くなる。
助けなければ、
人が死ぬ。
ゼルは、
ゆっくりと区域の中に戻った。
魔術が通る。
子どもは、別の治癒師に救われる。
助かった。
だが――
ゼルの胸に残ったのは、
安堵ではない。
諦めに近い理解だった。
指定を拒否すれば、
もっと多くが犠牲になる。
受け入れれば、
基準は
世界の装置になる。
「……指定は、
選択肢じゃないな」
ノクスは、
否定しなかった。
「ええ。
それでも選ばせている、
という形を残すための言葉です」
夜。
指定区域の灯りが、
一斉にともる。
人々は眠りにつき、
安心する。
その中心で、
ゼルは立っていた。
基準として。
逃げ場のない位置で。
指定は始まった。
そして――
次に来るのは、
指定を“破った場合”の話だ。
それを、
世界は必ず試す。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第32話 違反(1)へ続く




