第30話 契約(3)
本作は「魔術が当たり前の世界」で、ただ一人そこから外れた少年の物語です。
静かに歪み始める学院の日常と、気づいてはいけなかった違和感をお楽しみください。
ゼルは、ゆっくりと首を振った。
「……それはできない」
空気が、わずかに固まる。
「理由は?」
「一つの場所に留まれば、
他を見捨てることになる」
「だが、
救える数は増える」
「数の問題じゃない」
ゼルは、はっきりと言った。
「基準が、
場所に縛られた瞬間、
世界は“使い方”を覚える」
沈黙。
誰も反論できない。
だが、納得もしていない。
ノクスが、淡々と記録する。
《交渉結果:不成立》
《基準:契約拒否》
《次段階予測:強制的枠組みの構築》
ゼルは、席を立つ。
扉に向かう背中に、
男が言った。
「……後悔しますよ」
ゼルは振り返らない。
「もう、後悔の中にいる」
契約は結ばれなかった。
だが――
世界は諦めない。
契約が無理なら、
法を作る。
制度を敷く。
囲いを作る。
基準を、
“例外”ではなく
“前提”として組み込むために。
ノクスが、静かに告げた。
「次は、
合意ではありません」
「……分かってる」
「指定です」
ゼルは、夜の階段を上がる。
敵意は去った。
取引は拒んだ。
残るのは――
強制という名の秩序。
そしてそれは、
これまでで最も厄介な敵だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
善意や好奇心が、必ずしも優しさにならない世界を描いています。
続きもゆっくりと深まっていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
第31話 指定(1)へ続く




