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2話【室町和風ファンタジー / あらすじショート動画あり】

ーーーーーーーーーーー

■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓

https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI


■他、作品のあらすじ動画

『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』


-ショート(1分)

https://youtu.be/AE5HQr2mx94

-完全版(3分)

https://youtu.be/dJ6__uR1REU

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〈ストーリー〉

■■室町、花の都で世阿弥が舞いで怪異を鎮める室町歴史和風ファンタジー■■

■■ブロマンス風、男男女の三人コンビ■■



室町時代、申楽――後の能楽――の役者の子として生まれた鬼夜叉おにやしゃ


ある日、美しい鬼の少女との出会いをきっかけにして、

鬼夜叉は自分の舞いには荒ぶった魂を鎮める力があることを知る。


時は流れ、鬼夜叉たち一座は新熊野神社で申楽を演じる機会を得る。

一座とともに都に渡った鬼夜叉は、

そこで室町幕府三代将軍 足利あしかが義満よしみつと出会う。


一座のため、申楽のため、義満についた怨霊を調査することになった鬼夜叉。


これは後に能楽の大成者と呼ばれた世阿弥と、彼の支援者である義満、

そして物語に書かれた美しい鬼「花鬼」たちの物語。



「や~い、舞々(まいまい)! 乞食の子っ!」

笑い声とともに、泥団子や石の礫が飛んでくる。舞台で使う杜若かきつばたを取りに行く途中、村の悪ガキどもに見つかってしまったのが運の尽きだった。

鬼夜叉は飛んでくるものを、芸人ならではの俊敏さで一つ一つひょいひょいと避けていく。


「くそっ!」

「ちょこまかするなっ!」


と、後ろから罵声とともに第二弾が飛んできた。

これじゃキリがない。鬼夜叉は咄嗟に近くにある木に身を隠し、するすると登った。下では悪ガキたちが、


「くそっ、いないぞ」

「どこに行ったんだ」

としばらくウロウロしていたが、そのうち諦めて帰っていった。

ホッと息をつく。


──世は、室町。

申楽を始めとした芸人たちは、乞食や畜生と呼ばれ、最も身分が低いとされていた。巡業に行く先々で、罵声や石を投げられるのも、日常茶飯事だ。


「まったく、これだから現実ってヤツは……」

木の上でブツブツ呟いていると、


「鬼夜叉っ!」

後ろから、誰かがのしかかってきた。鬼夜叉は今、木の一番てっぺんにいる。普通の人間では、絶対に無理だ。

案の上、振り返ると、真っ赤な髪をした少女がいた。白い着物と紅の袴が、髪の色に映えて何とも鮮やかだ。


「セイ! こんなところで何を?」

「いい生気を持ったいい男いないかな~ってぶらぶらしてたら、あなたが逃げているのを見かけてね。面白そうだから見に来た」

「ふうん、相変わらずの痴女っぷりだな」

「人のこと言える? あなたこそ、その年になっても、まだ友達できないわけ?」

「よ、余計なお世話だよ……! 別に、友達なんて欲しくないし」


ぶすっとして言うと、

「ははは! あなたって、本当に昔から変わらないわね! そうゆうところ!」

セイは、クククとお腹を抱えて笑った。口元から小さな牙がのぞく。


セイは人間ではない。

──鬼だ。


この名前のせいかどうかは知らないが、鬼夜叉は昔から、普通の人には見えないモノが見えた。

精霊、妖怪、神仏。そして鬼。

物心つく頃からそうだったためか、今ではどんな奇っ怪なモノを見ても、まるで「何も見えていません」とすました顔をしていられる。


俳優えんじゃだからという訳ではない。

もともと興味がないのだ。

人外のモノたちは概して、醜悪で不気味で畏ろしい。どれも見るに値しない。王朝の美しい物語とは大違いだ。


「あぁ、なんか舞いたくなってきた」

物語のことを考えたら、手足がうずうずしてきた。掌で、扇が入っている懐を撫でる。


「いいんじゃない。あたしも久しぶりに、鬼夜叉の舞い見たいし。最近稽古が忙しいとかなんとか言って、あんまり見てないしさ」

「そうだっけ? んじゃぁ、お言葉に甘えて」


鬼夜叉は枝から枝をつたって、軽やかに地面に降りたった。

芸人は舞台での演技の他、宴の席を盛り上げるための奇術や曲芸などもできないといけない。なので、このくらいは朝飯前なのだ。

落ち葉が舞う中、扇を取り出す。一呼吸つき、胸の前で扇を一つ、一つと広げていく。


天の羽衣風に和し

雨に潤う花の袖

一曲を奏で

舞ふとかや



一声を高らかに。羽衣を表現するよう、扇を胸の前でひらひらと踊らせる。


――謡曲『羽衣』。

この曲は、かの有名な天女伝説を基にして作られたものだ。


昔むかし、漁師である白龍が三保の松原の岸辺で美しい羽衣を見つけた。さっそく、それを持って帰ろうしたところ、目の前に天女が現れ「返して下さい」と懇願する。一度は断った白龍だったが、「舞いをみせてくれたら返す」という条件で羽衣を返すことになった。そして衣をまとった天女は舞いを舞いながら、そのまま天へと帰っていく。


その時に見せてくれた舞いこそが、この曲の一番の見せ所である〈天女の舞〉だ。

『羽衣』は多くの座が演じている有名な謡で、鬼夜叉もお気に入りの謡の一つであった。


(あぁ、気持ちいい~)

謡いだした瞬間、全てがどうでもよくなった。


悪ガキどもに後ろ指さされることも、父に呆れられることも。

怒りや哀しみや惨めさ、全てが吹き飛ぶ。


代わりにあるのは、申楽――舞いと自分だけだ。

今はただ心の、身体の動くままに、舞う。


『お前は、舞うために生まれてきたみたいな子だな』

普段は閉じこもってばかりいるのに、いざ舞台に立つと、誰よりも凜とした雰囲気を放つ息子を見て、ある時、父が言った。


だが、そんなことどうでもいい。

何のために生まれたとか、興味はない。

自分が欲しいものは、ただ一つ。

舞うことだけ。

それ以外、何もいらない。



「――あなたの舞いは不思議ね。〝花〟が見えるわ」

目を開けると、枝に腰をかけたセイが拍手していた。


「〝花〟? いつも言っているけど、それってどうゆう意味なの?」

「う~ん、何て言うのかしらね、心が晴れやかになるっていうか、我が身を振り返って反省しなきゃっていうか……」

セイは頬に手を当て、深くため息をついた。毎度のことながら、彼女の言っていることは、意味がわからない。


思えば、セイとの出会いは、最初から強烈だった。

あれは鬼夜叉がまだ六、七歳の頃。今日みたいに、子どもにいじめられて、森を彷徨っていた時だ。


「ああ~んっ」

舌っ足らずな声が、どこからか聞こえてきた。見ると、桜の木の又に十五、六くらいの少女が一人、座っていた。

白紗の着物の襟をはだけさせ、身体をクネクネさせながら木の幹に抱きついている。


(この人……ちょっとやばい人かも……)

鬼夜叉は、相手に気づかれる前に、急いでその場を離れようとした。


「……あら?」

だが運悪く、少女が鬼夜叉に気づいてしまった。木の上から、じっと視線を注いでくる。


「あなた、誰? どこから来たの?」

こうなっては仕方がない。鬼夜叉は、木の上の少女を真っ直ぐに見返した。


少女は、美しい容貌をしていた。

赤糸の髪に、泥眼とみがおうばかりの金の瞳。目元には鱗のような刺青まである。


どう見ても、村の者ではない。

もしかしたら、仮装している七道者かもしれない。


鬼夜叉は、怖じ気づいた背筋をぴっと正した。芸人はいかなる時でも、堂々として清く。父からの教えだ。


「僕は近くの村から来た芸人一座の者です。そうゆう、君は……?」

「あたし? あたしはね、この森を抜けたところにあるお寺から来たの」

「お寺? じゃぁ、やっぱり……でも、こんなところで何を?」

「見ればわかるでしょ」


少女はにたりと笑い、長い手足をするりと木に絡ませた。


「まぐわっているのよ」

「……へ?」

「だーかーらー、まぐわってるの。あんまりにもこの木の精気がおいしそうだったから。あなたもどう? やっぱり、樹も人間も若い方がいいわよねー! あはん」


少女は、悶絶するように自らの身体を抱き締めた。

(……この子……痴女だっ!)

本能的な危険を感じた鬼夜叉は「へ、へぇ」と言いながら、一歩ずつ後退していく。


「そ、そうなんだ。じゃ、じゃぁ、僕はこれで……!」

「ちょっと待ちなさいよ」


少女が軽やかな動作で、鬼夜叉の前に降り立った。ここぞとばかりに顔を近づけてくる。


「あら、あなた随分と、幼い姿に化けたのね」

「え? 化けたって……?」

「だって、あなた――」


少女はしばらく考えた後、ポンと手を打った。


「あら、やだ。あなた、もしかして人間? あたしが見えるから、てっきり同じ鬼かと思った」

「鬼……?」


鬼夜叉は、少女を指差した。


「……君、鬼なの?」

「見ればわかるでしょ」

少女は誇らしげに胸を張った。


「で、でも鬼って、頭から角が生えてたり、肌の色が赤だったり青だったり……要は醜いものでしょ?」

少なくとも、鬼夜叉が見てきた鬼は全部そうだった。


「はっきり言うわね。ま、あいつらはお世辞にも見目がいいとは言えないけど。でもそれは力動風鬼だけよ」

「リキドウフウキ……?」

「そう。見た目もまんま鬼って感じの、生まれながらの鬼のこと」

「じゃぁ、君は?」

「あたし? あたしはねぇ……――あっ、その前にっ!」


いきなり、少女はパッと手を差し出してきた。


「あたし、セイっていうの。よろしくね」

「よろしく。僕は鬼夜叉」

「あら、ご丁寧にどうもどうも……って、何か順応早いわねっ!」


セイがすかさずツッコんできた。


「普通、人間が鬼に会ったら、もっとワーキャーみたいのが、あるんじゃない!?」

「はぁ、そうゆうものなの?」

「そうゆうものよっ! もしあたしが可憐で繊細な鬼じゃなかったら、どうするの! 頭から喰われちゃっているところよ!」

「……はぁ、可憐で繊細……」

「そこじゃないっ!」


焦れたようにセイは、紅い髪をガリガリとかき乱した。


「さっきから思ってたけど、あなた、大丈夫? 随分、浮き世離れしているというか……人間の子どもって、もっと生き生きと溌剌としているものじゃないの?」

「溌剌? はっ、そんなの無理に決まってる。こんな腐りきった現実で、溌剌なんて……」

「う~ん、とっても面倒くさい感じね。もう一度確認するけど、本当に人間の子どもよね?」


セイは大きな目で、じっと見てきた。その瞳は、人間なら白目があるところが金に染まり、瞳は満月を戴いた夜のような闇色だった。

(……やっぱり、この子、人間じゃないんだ……)

今更ながらに、実感する。


「あら? その着物、どうしたの? 随分、汚れているじゃない? 友達にでもいじめられた?」

セイが、鬼夜叉の衣に気づいた。


「違う! あんな奴ら、友達じゃない!」

思わず叫ぶと、セイが吹き出す。


「あはは! そうしていると年相応ね! 能面みたいに澄ましているかと思いきや、ただの強がりってわけ! そんなんだから、友達ができないのよ!」

「う、うるさい。い、いいんだよ、友達なんかいなくて。僕には一座の人たちがいるし、物語や申楽だってあるし……!」

「ムキになっっちゃって。かあわいい。そうだ! 何なら、あたしが友達になってあげましょうかっ!?」


セイは、名案とばかりに手を叩いた。


「丁度、退屈してたところなの。ねぇ、これから一緒に遊びましょうよ」

「あ、ごめん……僕、これからお寺に行かなくちゃいけなくて……」

嘘ではなかった。鬼夜叉はここにきてようやく、自分がどこに向かう途中だったのかを思い出した。


「お寺?」

セイが首を傾げる。


「それって、もしかして今流行の稚児奉公ってヤツ? お坊さんが美少年はべらせて、でれでれするっていう」

「さぁ。今日が初めてだから、よくわからないけど」

「それにしては、随分、乗り気じゃないみたいね?」

「だって……」


相手が人ではないからか、気がついたら色々と話していた。


「僕だって、本当は家に閉じこもって物語を読んだり、稽古をしていたりしたい。でも、うちはしがない芸人の家だから、こうして小銭を稼がないと……父上は『そんなこと気にしないでいい』とは言ってくれるけど……」

「へぇ、偉いのね、じゃぁ、父親と一座のために?」

「いや、違うんだ」


強く首を振った。


「一座がなくなったら、僕が舞えなくなるから。僕は舞うためなら何をしたっていいんだ」

瞳に初めて宿った光を見て、セイが興味深そうに喉を鳴らした。


「面白いわね、あなた。そこまで言うなら、あたしがどうにかしてあげましょうか?」

「え、できるの……?」

「まっかせなさーい。いくら流行っているとはいえ、稚児趣味ってどうもいただけないと思っていたところだしね。うーん、そうね……あっ、こうゆうのは、どうかしら! あたしが木偶の人形を鬼術で操って、あなたの代わりとしてお寺に送るの。そうすれば、あなたは行かなくていいわ」

「そんなことが……?」

「できるわよ。こう見えても、あたしはそこらへんの鬼よりも力が強いんだから。何なら、法力もたいしてない欲ばっかり深いお坊さんたちを誘惑して、『お許し下さい女王様』と跪いて足を舐めるまで、いじめてやるのもいいわね。ほーほっほ」


興奮を抑えきれなかったのか、セイが高笑いをした。ふと途中で何かに気づき、ぐるりと鬼夜叉の方を向く。


「んじゃ、これであたしとあなたは友達ね。仲良くしましょう」

セイが鋭い爪をもった手を差し出してきた。鬼夜叉は咄嗟に、その手を掴む。

ザラザラして、すこし冷たい彼女の手は、とても快かった。


◆参考

『羽衣』天女の舞

出典:くらきSSショートストーリー能「羽衣」(金春流能楽師山井 綱雄 tsunao yamai様)

https://youtu.be/oFJgr5jB6-o?si=TUSlWFrQtPj1Oa-5&t=504

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