1ー53 『タレミシア革命』⑧
アメリアは何も考えず走り続ける。
しかし、ケルベロスが追いかけていることにアメリアは気づかない。
鼻息、魔力全てを感じてアメリアは一瞬だけ後ろを見た。
そこには猛獣の顔。すぐ目の前。
「きぃゃああああぁぁぁぁ!!」
アメリアはさらに走った。
迫り来る死にも臆せず前に進む。
それは全てパパとママに会うため。
「はっ……はっ……はっ……!!」
息切れが止まらない。
もう体力も既に限界を超えている。
アメリアが徐々に減速する中、ケルベロスの間合いに入ってしまった。
一つの首がアメリアを食おうと口を開け、アメリアの頭上を狙う。その時――――とある刺客が光を照らす斬撃を浴びせた。
「光の剣術“【宝刀】煌めき”……!!」
ケルベロスの三つの首を同時に切断。
ケルベロスは朽ち果て、塵も残さす消えていった。
「全く……何か嫌な予感したから来たけど、まさか女の子がケルベロスに襲われてたなんてね」
でも、その魔術師は未だに嫌な予感が手に残る。
この違和感……タレミア王国から……まさか!!
彼女はアメリアを《未来眼》で中間都市ザノリスまで辿り着く未来を見た。
あの子は大丈夫。先に進もう。
彼女は違和感を感じながらタレミアに向かった。
※※※※※
「リリィ……リリィ……!!」
ジークは倒れているリリィに手を差し伸べる。
疲弊した体、何本も骨折しても尚、ジークは妻の心配をする。
「こんなものか、やはり人間は弱いな」
「うっ……があああああああ!!」
勝負はすでに決まっていた。
グレイバルはジークの差し伸べる腕を踏みにじる。
グレイバルはジークの髪を引っ張り、顔を合わせる。
「絶対にお前を殺す……!! 殺してやる……!!」
「ほう、これでもまだ威張れるか。私を殺すどころか、先にお前が死ぬぞ」
「やれるものならやってみろ……!!」
「そうか……なら、お前に二つの選択肢をやる。一つは、お前が先に死ぬか。もう一つは先にあの女が殺されるかだ」
「断る!!」
グレイバルは顔をいらつかせる。
「なんだ、その余裕は……実に腹立たしい。決めた、お前を先に殺す」
「ああ、殺せよ。たとえ俺を殺したとしても必ずお前を殺す奴が必ず来る。それまで怯えながら待ってるんだな!!」
「……もういい。死ね」
顔面直視ならばこの魔術は絶対不可避であり、強者のみが弱者に死をもたらす最強の魔眼。
ジークは次に託した。
ジークが殺されたと知られた際、必ず彼女がグレイバルを仕留めると信じて。
目を閉じる。
グレイバルは魔術を開眼。
《死――――》。
ジークはその瞬間、死が確定した。はずだった。
グレイバルの両目に切れ目が走り、魔眼の発動を封じたのだ。
これは光の剣術“【斬撃】三日月”。ジークも光の剣術を使えるが、すでに身体の疲労が限界を超えていて魔眼を素早く出せる程の剣術は出せない。だとしたら、グレイバルとジークの顔面の距離はわずか三十センチも無い隙間に斬撃を通した者がいる。
そんなことできる者はどこに行っても一人しかいない。
「放せ」
思わぬ刺客が現れた。
アメリアを助け、ジークもまた彼女に助けられた「世界最強」の称号を持った魔術師。
五大魔術師第四位 《魔剣の剣皇》
フレイ・ハズラーク。
フレイの眼は完全に怒りに満ちていた。
グレイバルは目を失ってもなお笑う。
「ここでまさかお前が現れたか、フレイ・ハズラーク。面白くなったきた」
「へぇぇ。私が来たというのに怖気無いんだね」
グレイバルはジークから手を放し立ち上がる。
最高位魔術《超速再生》。
グレイバルの目は一瞬にして治る。
「《超速再生》ね。それができるってことは相当強いね、あんた。ジークさんも倒れているのも頷ける」
「それはどうも。だが、なぜお前が来た。いくらザノアが隣国とはいえこの騒ぎなど気付けるぐらい近い距離では無いだろう」
「勘だよ、勘」
ジークは察した。
おそらくゼルベルン・アルファの精霊が救難信号としてフレイ・ハズラークに届いたのだろう、と。
出張でゼルベルンもまたグレイバルの罠に嵌り、すぐに行けないからフレイに応援要請をしたんだと。
それでもジークは警戒する。
「だがお前が来たとて無駄なことだ。たかが偽物のクインテット。私に敵うわけがない」
「何言ってるの? あんたより私の方が強いよ」
「ならば、これでも受けてみろ」
この時、ジークは叫んだ。
「ハズラーク!! そいつの攻撃は、突然来るぞ!!」
グレイバルの攻撃はまさに時間短縮するための早業よりも早い何かで時間ごと切り取られたような避けることさえできない攻撃。反応さえ許さないその攻撃にジークとリリィはやられた。
グレイバルはすでに殺しに行っていた。攻撃はすでに始まり終わっていた。
「……!!」
天性魔術《魔剣生成》全自動生成発動。
フレイの首を狙ったグレイバルの手刀が宙に浮く生成された魔剣に当たっていた。
「それで、私に勝てる根拠って何? それ天性魔術?」
これが五大魔術師フレイ・ハズラーク。彼女に不意打ちは通じない。
グレイバルは咄嗟に距離を置く。
「まさか、私の攻撃をいとも容易く封じるとは……」
「だから、あんたは何したいの? 殺すよ?」
フレイの脅しはいくら反逆者でも恐れるものがあった。
グレイバルは潔くフレイを察した。
この女は自分より強い……!!
「ならば、計画変更だ」
その瞬間、グレイバルは姿を消した。
※※※※※
アヴァロンが遠吠えを上げる。
王都は火の海に包まれ、たくさんの死者が散りばっていた。
アヴァロンの目の前、グレイバルは突如現れる。
「お疲れさん」
そう言ってグレイバルはアヴァロンを正面で殴った。
アヴァロンは物理攻撃に弱い。
一瞬でアヴァロンの巨体は崩壊し、姿が散り一つなく消えた。
倒したグレイバルは地上に降り立ち、叫ぶ。
王都中の魔道具「モニター」で移しながら。
「皆の者、未知のゴーレムは私グレイバル・サタンの手によって討伐に成功した!!
これによりタレミア王国は再び平穏が訪れるだろう!!
しかし!! タレミアの現国王はこのゴーレム襲撃の際に逃走した!!
奴は我々国民を見捨てたのだ!!
こんなの許されるか? 許されるわけがない!!
よって、この国は私が統治しようと思う!!
共にこの国を復興しようではないか!!」
この時、王都の壁を越え見ていたフレイ、そして遠くの地でその様子を感じ取っていたゼルベルンは気づく。
五大魔術師は国を破壊することはできても国を復興することはできないのだと。
そのあと、グレイバルは国民の圧倒的な支持により国王に就任することになった。
これにより「タレミア王国」改め「タレミシア魔術大国」はここに誕生した。
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