1ー51 『タレミシア革命』⑥
※※※※※
「アメリア!! リリィ!! 逃げるぞ!!」
城にある地下の避難室までジークは走って駆けつけた。
「何してるの!? あなたなんでここに来たの! あの魔物はどうするの!」
「魔物どころじゃなくなった。グレイバル・サタンという魔術師が謀反を起こした。これは奴の襲撃だ」
「それでもあなたとアミーで協力して戦えばなんとかなるはずでしょ?」
「いや、俺が狙いならまだいい。でも狙われたのはアメリアだ」
「……!! 嘘……。なんでこの子が狙われてるの!」
「とにかく話は後だ。今はアメリアを連れて逃げるぞ」
「わかった。行きましょ」
アメリアは恐怖のあまり悲鳴を上げ続けていたのでリリィが魔術で寝かしつけた。だが、そうも言ってられない。
「アメリア、起きて。ね、起きよう」
「……ママ?」
「よし、早速行きましょ」
「アメリア、パパがおんぶするからこっちまでおいで」
「……どこか行くの?」
「そうだよ。だからほら、パパの背中までおいで」
アメリアはジークの背中に乗った。
「行くか」
「ええ。行きましょ」
ジークはアメリアを抱えながらリリィと共に避難室を出た。ついでにアミール直属で信用に置ける上位魔術師を二人を連れて城の王族以外誰も知られていない隠し通路で城から脱出した。
※※※※※
アミールは全て敵のこの状況を見て改めて言った。
「必ず、お前を倒す! グレイバル・サタン!!」
「ほう。それでも挫けないか」
「なぁに、有象無象の敵が増えただけだ。戦況は変わらないだろ」
最低位魔術《水の砲撃》が敵をかいくぐりアミールに襲う。
だがアミールは拳一つでその魔術を破壊した。
「おい、国を裏切ったくそ貴族ども。お前らそれがどういう意味がわかってんだろうな。……グレイバルのみが討伐だったが今、変わった。ここにいる者全員が討伐対象だ。貴族だろうがなんだろうが殺す。全力でかかってこい……!!」
平民であるにも関わらず王族よりも多い魔力量とその圧迫感はこの場にいる貴族全てを恐怖へと誘った。
「かかれ」
『反国派』の貴族が一斉に魔術を仕掛ける。
腹を貫かれ、負傷しているアミールに対して悪くない手ではある。が、アミールはそんな手口などに驚きもしない。
高位魔術《千差万別の防壁》。
そんな程度の低い魔術などタレミア王国魔術師団団長には通じない。
ここでグレイバルは気づく。
アミールは負傷してるにも関わらずその冷静さとそれでも出せる高密度の魔術が使えている。
さらにその貫いた腹部の傷口事態が治りかけている。
確かにアミールは自ら治療魔術を施していた。だが、その傷は既に致命傷に近く、最高位魔術《超速再生》でないと生き伸びることさえできない。
アミールに《超速再生》をした形跡は見られない。さすれば―――。
「貴様、特殊体質持ちか……!! 人族に稀に現れる権能、まさかこの時代でも見られるとはな……!!」
アミールは立て続けに来る魔術を防壁で回復の時間を稼ぐが、それではグレイバルに届かない。
奴らはいくら謀反を起こそうとタレミア王国の貴族。仮にもこの王国を支えてきた由緒ある者たちだ。
だが、彼らはそのタレミア王国を裏切り、アミールに立ち向かってくる。
……もう覚悟は決まった。これはタレミア王国にとって大きな犠牲者だ。
――――死ね。
フィンガースナップ。
高位魔術《天翔の雷》が的確に『反国派』の貴族全てに命中した。
「くそ……」
「平民風情が……」
次々と倒れる貴族ども。
もしこれが内戦じゃなかったらアミールは大犯罪者になるだろう。
「どうした、グレイバル。言ったはずだろ? 有象無象が増えたところで戦況は変わらないって」
「……そうだな。確かにお前とは少しぐらいなら楽しめそうだ」
なんだ、その反応は。
アミールは構える。
「だが、残念だよ。お前と遊んでやりたいが、もうその時間は無さそうだ。アメリアがこの城からたった今、抜けた」
は……?
アミールは一瞬、奴の言動を理解できなかった。
時間が無い……? 姫様が城を抜けた……? ……まさか!!
「させるか!!」
「じゃあな、アミール・タルタロス。また会おう」
時すでに遅し。
アミールが魔術を出す間もなく奴は消えた。転移魔術の痕跡も無しに奴の気配はもうそこには無かった。まるで時間を切り取られたように。
アミールは完璧に理解した。
奴が消えた、ということは――――
「姫様ああああああああああ!!」
アミールは転移魔術を使えない。故に身体強化の付与をつけてすぐにグレイバルのもとへ向かうが、果たして追いつけるかどうか。
「必ずお守りします! 姫様!!」
ひたすらアミールは走り続ける。
※※※※※
「うっ……!!」
「がっ……!!」
ジーク、アメリア、リリィを護衛する魔術師が同時に倒れた。
「マジか」
「なんで、ここにいるの……」
玉座までの距離、転移魔術を使わない場合少なくとも一時間はかかる。
そして、城に出てからすでに二十分が立っている距離。アミールを殺したとしても、追いつけることのない時間に奴はタレミア家の前に立ちはだかった。
「そんなに逃げるなよ、親族のために民を裏切る馬鹿王族が……」
グレイバル・サタン。
奴は魔力を完全に消して目の前に現れた。
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