1ー４３ 人命救助
「人間って……何言ってんだよ」
「誤解しないで欲しい。あくまで人間が中にいるってだけだよ。ゴーレムのいう核に人間がいるってこと」
マジかよ。
「それで、そいつを救うことはできるのか？」
「……本当に言ってる？」
なんかおかしいことでも言ったか？
「ああ。オレがそのゴーレムの中の人間を救うって言ってんだよ」
「救うってその人間がゴーレムを操縦してるかもしれないじゃないか」
「それは無い。魔力の流れ的にその人間と、なにやら魔族の魔力を感じる」
ルークは魔族という単語に驚いている。
「確かに僕の魔術でも二つの魔力をゴーレムから解析している。でも、もう一つの魔力が魔族だなんて」
「それで、救えるのか？」
「……もちろん。確証は無いけど、やってみるかい？」
「当たり前だ。このオレ、ノア・ライトマンに不可能なんて無いんだよ」
そう告げるが否や、ゴーレムは颯爽に砲撃を放つ。
この砲撃って……。
さっきの炎は魔力では無く自然から発生されし物。
今度は魔術。それも途轍も無いもの。
最高位魔術《向日葵》が放たれ、会場が焼けの原と化した。とはならなかった。
光の剣術“【秘剣】魔術返し”。
これにより放出される魔力エネルギーは全て天へと貫いた。
「……！！」
「……なんだよ」
「さっきの、最高位魔術だよ？ 君の天性魔術って一体……」
「その話は後だ。今はあの肉の塊にいる人を救出するぞ」
「おう」
気を引き締めろ。
これは人命救助だ。
単なる戦闘じゃない。
「それでルーク。救い方を教えてくれ」
まずはこうだ。
オレが天性魔術もとい光の剣術“【斬撃】三日月”で奴を斬り続ける。
その間にルークはオレとゴーレムのみに絞り、結界魔術《表裏の狭間》を展開。
《表裏の狭間》により混じりあった奴の二つの魔力が引き剥がされる。
そこでオレが先程した最大出力の光の剣術“【斬撃】三日月”で核部分を狙い、その切れ目からルークの高位魔術《焦点》で人間だけを引き寄せて一瞬で救出する。手筈だった。
「「……！！」」
生憎、奴の肉体はすぐに再生する。
ゴーレムの再生は魔術を使わない。
その再生速度は魔術を介さないのでその初動時間分、最高位魔術《超速再生》よりも早いと言える。
「くそっ……！ どうすんだよ、これ」
光の剣術“【斬撃】三日月”は普通に放っても傷がつく程度。
かと言って最大出力の“【斬撃】三日月”を連続で放つことはできるけど、オレの剣術は大気中の魔力の流れから出ているもの。
すぐ枯渇してしまう。
この時、結界魔術を展開していて良かったと思える事が起きた。
高位魔術《断崖の業火》。
天より放たれた一つの火球は地に衝突し、一瞬で燃え広がる。
最高位魔術より威力自体は弱いが、術者によってはその限りでは無い。
奴は最高位魔術を使うのだ。それだけ洗練されている。
「まじかよ。……って、ルーク！ 無事か！！」
オレは奴の魔術を光の剣術“【秘剣】魔術返し”で弾いて防げるが、ルークは違う。
すると、地煙より高位魔術《千差万別の防壁》の断片が見えた。
「……僕は大丈夫。ノア君は平気かい？」
「気にすんな。この程度、なんてことは無いさ」
……さっきから魔術しか攻撃してこないな。
そんなに距離を保ちたいか、それとも物理攻撃する魔術が組み込まれていないのか。
後者は無いな。
さっき殴りかかってきたし。
となると、距離を保つ根拠か。
「ノア君」
「……なんだよ」
「さっきから奴を解析しているけど、一つわかったことがある。奴は魔術特化のゴーレム、物理攻撃を一瞬でも当たれば崩れる」
なるほど。だったら。
「ルーク、ありがとう。お前のおかげで突破口がわかった」
一瞬の隙間。
オレはゴーレムの間合いに入った。
「これで終いだな」
物理攻撃で崩れる。
それはこの魔術全盛の時代において魔術攻撃を主とする魔術師が蔓延るこの世界において奴はまさに特異点だ。
でも、お前に残念のお知らせがある。
オレはこの世界で唯一嫌われたライトマン家に受け継がれし忌み子だ。
オレは手刀を構え、放つ。
「“煌めき”」
光の剣術“【宝刀】煌めき”。
奴はオレの斬撃の魔術に当たり、体が崩れ落ちていった。
「今だ……！！ ルーク！！」
「高位魔術《焦点》」
ルークの魔術により、心臓部にいた人間を引きつける。
これでこの戦いは終わる。
「……なぜ、引きつけれない」
ルークが魔術を込めているのはわかる。
だが、一向に囚われた人を救出できなかった。
「……は？」
オレはこの時、異様な魔力を感知した。
先程のゴーレムと同じ魔力、いや奴だ。
高位魔術《蜃気楼》。
奴はオレの攻撃寸前で身代わりを作り、自分の身を凌いでみせた。
ちょっと待て。
ゴーレムは一定の魔術を組み込まれた意志の無い魔物だろ？
物理攻撃を警戒するなら一定の距離さえ保てれば良いし、詰められても先程の魔術を使えばいい。
だが、その魔術を使用した奴をオレは見逃さない。魔術の流れでわかる。
寸前で躱すというこの駆け引き。
まさか……。
「奴は意志を持ってる？」
ここで奴の天性魔術が発動する。
高位魔術《焦点》は対象によって魔術や人間に変えることができ、どちらも一点に集める魔術である。
次回、6月16日12:21頃投稿
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