1-42 ゴーレムの正体
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『星極の術魔祭』一年生予選決勝の前日、ゼルベルン・アルファは西のファバリン魔術学園へと出張に行くことになった。
「行ってもよろしいんですか」
「行かなくちゃならないからね。連日のケルベロスといい、ドラゴンといい、はたまた生徒の生死不明な消息、不安要素が露呈してるが、自分の責務は全うしないと高等学校生魔術師の全体的な向上は見込めないから。それに今、わたしにかわり頼れる魔術師もいるんだ。心配はしてないよ」
と言いつつも、ゼルベルンの表情は硬いままだった。
秘書のライラ・サンバランスが気にかけて話す。
「そんなに心配なされるなら行かなくてもよろしいのでは?」
「……やはりわたしは顔に出やすいようだね。でも、安心したまえ。この転送用魔術陣があればすぐにここへ駆けつけられる。心配はあるが、それでも大事には至らないはずだよ……?」
学園長室にある転送用魔術陣は各大陸の魔術学園へ行くことができる。もちろん戻ることも可能だ。
これのおかげでゼルベルンは主張する際の移動時間を削減、それに非常事態が起こった時にすぐ戻れるようになっていた。
「じゃあ、行くよ」
「かしこまりました」
ゼルベルンはその魔術陣に入り、姿が消えた。
「はあぁぁぁ……。さすがにあの手練れを騙すのは面倒だな。微々たる魔力でも奴は反応するからな」
ライラはため息をつき、冷静に魔術陣を見る。
「それにしてもこの魔術陣、付与じゃなく永続的な展開魔術だな。これじゃ、床を破壊しても顕現し続けるじゃないか。それに……この複雑な魔術式。本当に面倒だな」
と言いつつもライラはその魔術陣を一つずつ紐解いていく。
そして、魔術陣はライラの退出した二十時間後に破壊された。
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……おい。
ケルベロスといい、ドラゴンといい、タレミシア魔術大国は一体どうなってんだ。
ゴーレムか。
ゴーレムは魔物でありながら自分の意思を持たない。
それはある一定の魔術がゴーレムの中にあってそれに従って動いている。
それではまるで自動人形じゃないかと思う人は多いがそれは違う。
奴には核がある。
本当に自動人形なら本体を壊すだけで機能は止まる。
だが、ゴーレムは核を破壊しない限り再生し続ける。
というか、こんな被害、大分人が死んだんじゃないのか!!
「……おい、ルーク。ここは一時休戦だ」
「同意見だね、ノア君。ここは僕たちが奴を止めないとね」
「ごわああああああああああああああああああああ!!」
ゴーレムが雄たけびを上げる。
なんだこいつ。
本当にゴーレムなのか。
ゴーレムなら普通、岩石の物質で覆われた地系魔術を得意とする魔物だけど、こいつには皮膚があり、鱗があり、本来必要としない口まである。
「落ち着いて!! 落ち着いて避難してください!!」
焦り、荒れ狂う観客はもとい貴族までもが自身の身を案じ強引に出口まで向かう。
その悲鳴と騒音にゴーレムは標的として捉える。
ゴーレムの口から炎が放たれた。
ちっ……!!
「光の剣術“【秘剣】魔術返――――”」
……!!
嘘だろ。
これは魔術で形成された炎じゃなかったか……!!
その炎は剣を振りかぶっても尚、オレの方に向かう。
こりゃ、ミスったな。
この炎はオレに大ダメージを食らわされるぞ。
その時、地底より尽きぬかれし剣がオレを庇って炎を食らう。
中位魔術《礫地の剣》。
ルークの魔術か。
「ナイスアシストだ……!!」
「それはどうも。だけど、ゴーレムの襲撃は終わってないよ!!」
ゴーレムはオレに殴りかかってくる。
上等だ。
まずはお前の腕を千切ってやるよ。
「“斬撃”」
殴りかかったゴーレムの腕をオレは放物線を描いた光の剣術“【斬撃】三日月”で切り落とした。
「それにしても、君は凄いな。どれだけ自分の天性魔術を極めればそんな風に斬撃を飛ばせられるんだい?」
「あ? そんなもん勘だろ」
「勘って、そんなことはいいか。とにかく今は奴の討伐だ」
標的はこちらに向いた。
「それにしてもあのゴーレム、文献でも見たことない。なんだあれは」
「オレもだ。だから。お前に頼みたいことがある。奴を解析してくれ」
万が一、核が心臓部じゃなく他のところだったら斬ろうにも斬り損なう。
そのための保険だ。
「……わかった。その間、時間を稼いでほしい」
「ああ……!!」
オレは上空に飛び奴の目線までに届いた。
「最大出力――――“斬撃”……!!」
ゴーレムの核は人間の心臓部と同じ胸部にある。
そこをオレは光の剣術“【斬撃】三日月”で両断した。
よし、これで奴は終わ――――
奴は既に両断した切れ込みが回復していた。
嘘だろ。
普通の魔物なら消えるだろ。
高位魔術《大地の憤怒》。
それは大地を著しく爆発させ、地震を起こす魔術。威力が強いほど大地は震え、瓦礫を生み出すほどに大地は上昇する。
その瓦礫をゴーレムは投げてきた。
オレはその瓦礫をいとも容易く切り裂く。
「解析完了」
オレはそのルークの声に素早く耳を傾ける。
「それで、どうだった?」
「……ノア君、今から言うこと、落ち着いて聞いてね」
「……なんだよ」
落ち着いてってなんだよ。
高位魔術《神の道標》は相手の素性を全て暴く極めて重要な魔術。
相手の仕組み、魔力量はもちろん、極めれば天性魔術まで解析できる優れた魔術だ。その的中率は最低位から中位の解析魔術とは違って驚異の九割九分九里である。
そしてルークが見たものを説明した。
「あれはゴーレムじゃない。あれは……人間だ」
「……は?」
人間だと。
一体どういうことなんだよ。
この解析が後に戦況を一変させる。
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