1ー40 悔しい
勝敗は喫した。
激しい爆風とともに舞い上がった地煙からその場に立っている者がいた。
『こ、これは……!』
勝者は敗者を抱っこで現れた。
『しょ、勝者……!! ノア・ライトマン選手!! あの最高位魔術をくぐり抜け、見事に勝利を収めました!! なんという試合!! 最後の学生の枠どころか五大魔術師をも連想する戦いでリーナ選手の混合魔術をノア選手の天性魔術“斬撃”で斬り伏せました!!』
スタンディングオベーション。
盛大となった会場に観客は立ち上がり二人の若き魔術師の戦いに祝福を挙げた。
「お前はすごいよ、リーナ。お前がオレに全力でぶつかったからこんなにも人の心を動かしたんだぞ。……って寝てたらわからないか」
少なくともオレの最後の一撃、全力で光の剣術“【斬撃】三日月”を打たないと負けていたのはオレだった。それぐらいリーナは強かった。
今回は勝ちを拾わせてもらった。だが、次はどうなるか。
会場を降りて、その場を離れる。
「リーナちゃん!! ノア!!」
そこに居たのはアリア、エミリー、ルークの姿だった。
「さっきの試合、本っ当にすごかった!」
「うん……!!」
「いい試合だった。非常に参考になったよ」
あの引っ込み思案のアリアでさえこの表情。
身にしめてリーナとの試合は熾烈で素晴らしい試合だったと思う。
でも、オレはそんなこと言ってる暇は無い。
「ごめん。感想はまた今度。先リーナを医務室に運ばないといけないから」
「だったら私たちも……!」
「お前らは来ない方がいい。きっと、お前らには見せたくないだろうから……」
オレはそのままリーナを医務室に運んだ。
※※※※※
医務室。
リーナはベットで目を覚ました。
「ここって……」
「ここは医務室だよ、リーナ。おはよ」
リーナは起きて周囲を見渡した後すぐに掛け布団で顔を覆い、うずくまった。
「悔しい……」
どうやら状況がわかったらしい。
「悔しい……悔しい、悔しい……」
そしてリーナは泣き始める。
「なんで! なんでなの!! 私、全力で頑張ったのに!! 本気出したのに!!」
そりゃそうだよな。
お前はオレたちが住まう寮を離れてただ一人、オレを打倒するために魔術を修練してたからな。
オレもわかる。
何度、フレイに稽古でボコられたか。
最初は本当に鼠が猛獣に挑むように全く歯が立たなかったからな。
その悔しい気持ちはわかるんだ。
だからこそオレはこう思う。
「お前は凄いよ」
「……嫌味?」
リーナは泣き止んで問う。
「嫌味とかじゃねえよ。オレはお前がそう思えることに凄いって言ったんだよ」
「……なんで?」
「だって、お前。自分の全力、最高位魔術まで出してまで悔しいなんて……そこら辺にいる魔術師ならそれすら思わないだろ」
続けてオレはリーナに話す。
「普通の魔術師は『次元が違う』だとか『努力しても無駄だ』だとか、そんな言い訳を言って高みを目指さなくなる。
でも、お前は違う。
悔しいってことはそれだけ上を目指せるってことだ。オレもそうやって強くなった。だから――――」
オレはリーナの目を見て答えた。
「絶対に今日のことは忘れるなよ」
それが勝ったオレが言える言葉だ。
リーナは涙を拭き、鼻を啜って答える。
「何言ってんの。私がいつ慰めて欲しいなんて言った?」
オレに指差してリーナは宣言する。
「見てなさい!! 次は絶対にあんたに勝つ!! 本気も出させる!! せいぜい余裕ぶって待ってなさい! 絶対にあんたを超えてやるんだから!!」
オレは思わず笑みが零れた。
拳を握りしめ、リーナにその拳を差し伸べる。
「上等だ。お前が超える頃にはオレはその上にいる。次も全力でかかってこい!」
「うん!!」
リーナが指を指した手を拳に変えて、オレの拳に当てた。
互いに笑顔で固く誓いを結んだ。
というか――――やばいな。
「お前のファンが凄い大人数で医務室の前にいるんだけど、どうする?」
「どうって? 何を? 別に入って貰って良いんじゃない?」
「いや、オレが居るの流石にな」
「ああ、良いでしょ。私には関係無いし」
「おい」
すると、医務室の扉が開いて、一斉にリーナのもとにリーナファンが押し寄せる。
「大丈夫ですか! 痛くないですか!」
「凄い試合でした!」
「本当に憧れます!!」
時々来る痛い視線が飛ぶのは気のせいだろうか。
痛みを負わせた復讐心よりも嫉妬に近い視線というか。
「じゃ、オレは行くわ。しっかり休んどけよ」
「ありがとう、ノア」
あ、リーナファンの視線が一斉に来た。
オレはその視線に撃たれながら医務室を出た。
オレは強くなる。
どれだけリーナが追い越そうと追いつけないぐらいに。
オレがオレである為に。
オレは必ず『星極の術魔祭』一年生予選に優勝してやる。
そして、舞台は決勝へと向かう。
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