1ー34 安堵
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「一体どうなっている」
私立タレミア魔術学園学園長ゼルベルン・アルファは学園内のまるで感じたことない魔力を感知する。
彼女は出張が多い。
それは主に他の三つの魔術学校を渡り歩いているためである。
なぜ彼女は頻繁に出張が多いのか。
それは彼女が世界最強の魔術師『五大魔術師』の一人であるためである。
『星極の術魔祭』予選はゼルベルンによって制限無しの魔術を使用可能となっている。
だがそれはあくまで五大魔術師だからこそできるのであって他の東、西、南の魔術学校はそうもいかない。
よって彼女が出向くことによって他の『星極の術魔祭』予選の公平性が保たれるわけだ。
そして彼女は出張中も学園内の魔力を常に警戒している。
彼女の魔力探知範囲は彼女が精霊族の血を混ざっていることもあって意志を持つ魔力『精霊』によって自身の周囲の他にも色んな場所で彼女の探知は常に機能している。
「メノア・キャノンとマッド・バーダルの魔力が消え、今まで感じたことない魔力が現れた」
ゼルベルン・アルファは今、西大陸のファバリン魔術学園の『星極の術魔祭』予選を監視している最中。
彼女はこの胸騒ぎを押し殺して仕事を続ける。
※※※※※
「おいおい、なんだ今の」
「いつものノア・ライトマンの動きじゃなかったぞ」
「何も見えなかった」
「あいつ、やばすぎるだろ」
「まさか、今までが全力じゃなかった?」
観客が騒然となる中、オレは何も言わず会場を出て、道なりを歩く。
魔族は他の種族より遥かに強い。
魔力も身体能力も、戦闘においては一般の魔術師では歯が立たない。
そう、名の売れた魔術師でさえも奴らの力には敵わない。
オレみたいな倒したことのある魔術師でしか奴らに及ばない。
オレは今日そいつらを見逃した。
それがどうなるか、オレは重々理解していた。
「ノア!!」
呼んだのはエミリーだった。
オレはすぐに振り返った。すると、エミリーの他にアリア、ルークもいた。
「さっき、何があったの?」
「……別に。お前は知らなくてもいい」
「なんで? なんでそんな事言うの?」
なんでって……そんなの。
「お前らにはわからないから。知らない方が良い時だってある」
「そんなこと言われたら逆に気になるでしょ。ねえ、アリアちゃん」
「……うん」
それはそうだ。
オレだってお前らの立場ならそう思う。
けど、魔族という未知の種族を言ってしまえばこの先三人は果たして平常通り過ごせるのだろうか。
「……やっぱ言えない」
「君が言わないなら僕が言おうか」
ここでルークが話をつける。
「君が何に怯えているのかなんとなく察しがつく。君はさっき遭遇したんだろ? 奴らに」
は? なんでお前が知ってんだ?
お前はその時、その場に居なかっただろ。
「奴らって?」
「僕も異様な魔力を感じたんだ。あれは本当に今まで感じたことない魔力だったよ。君も感じたんだろ? 『魔族』っていう種族」
……!! こいつ、やっぱり……!!
「……なんで知ってんだよ」
「僕の父から聞かされたからね。当然君のことも知ってる」
ここでエミリーが切り出す。
「ごめん。『魔族』ってなに?」
エミリーは知らなくて普通だ。
もちろんアリアも。
「『魔族』というのは――――」
「ルーク。オレから話す」
「……わかった」
オレが恐れていたこと、ルークが口を滑らしたことでもう隠し事はできなくなった。
いっその事、話してみることにした。
オレが知っている魔族について。
それはかつて『魔術師殺し』と呼ばれた大犯罪者がそうであったこと。
外見が他の種族とは違うまるで悪魔を見ているかのようなおぞましいものであること。
そして――――オレが奴らと戦ってきていたということ。
「……へぇ」
エミリーの反応が薄い。アリアはというと……フリーズしていた。
「それだけ?」
「すごく大変だったと思うけど、別に隠さないといけないことなの?」
「そりゃそうだろ。こんなこと話したら日常になんて戻れないだろ」
「……なんで?」
「なんでってこいつらはいつ殺しにくるかわからないんだぞ」
「そんなのわからないじゃない」
「……それは……そうだな」
エミリーは気を取り直して笑みを浮かべて言う。
「そんなこと考えたって仕方ないじゃない。だから、笑顔でいようよ」
エミリーはアリアの目の前をぶらつかせてアリアが起き上がる。
この時、オレは舐めていたかもしれない。
アリアはともかくエミリーは真実を知って尚、平常でいられる。
オレは心の底から安堵した。
これなら、オレは話して良かったと思う。
話さず真実を知ってしまったら恨まれてしまうから。
これによってオレの深く刻まれた怒りが完全に抑え込むことができた。
――――そしてエミリー、アリア、ルークはいずれ魔族の正体を知る。
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