1ー33 怒り
「……なんだ、人間。我々になにか用か?」
「用って随分余裕こいてるんだな。ここがどこか知らないわけじゃないだろ」
「ああ、残念だがゼルベルン・アルファは我々のことを生徒としか認識してない」
……?
一体、何を言ってるんだ?
「我々は正真正銘、ここの生徒の体を使って学園の結界を抜けた。さらに我々の見た目はお前以外の人間には殺した生徒の顔にしか見えてないんだ」
「あ? 今なんつった?」
「ここの生徒を体を――――」
「そこじゃねえ。その後だ」
「要するに我々はここの生徒を殺して乗っ取った」
おい。殺した、だと?
死霊魔術。
それは基本魔術の一種で主に死体を使い、操るといった人道に外れた魔術。
こいつらは今、私立タレミア魔術学園の生徒を殺し、体を乗っ取ることでここの生徒として侵入している。
「……なるほどな。その魔術の弱点は自分の本当の正体がバレた瞬間にバレてしまった人には本当の正体にしか見えなくなるのか」
「……ほう。中々博識だな」
落ち着け。
人が殺されるのは散々見てきた。だが、こいつらの殺しはそれとはまた違う。
それはもっと恐ろしいなにかの予兆にしか思えない。
心を沈めろ。
怒りを抑えるんだ。
「それにしてもこいつらの最後の悲鳴が面白かったな」
「『ゼルベルンさん! 助けて! 助けて……!!』って、来るわけがなかろうに」
光の剣術“【宝刀】煌めき”。
オレは無意識に奴らのもとへ一気に距離を詰め、斬りかかる。
窓ガラスが教室全面に割れる。
首は斬った。だが、手応えが無い。
高位魔術《蜃気楼》で既にオレの背後を取っていた。
「今、貴様と張り合う気は無い。ここで我々はおさらばしよう。また機会があれば会おう、我が宿敵のクインテット、ノア・ライトマン」
「オレが逃がすとでも思ってんのか……!!」
オレはもう一度、手刀の形を取って一振。
光の剣術“【斬撃】三日月”。
だが、奴らは直ぐに消えた。
オレの斬撃は空振り、廊下の壁に傷がつくほどの切り 心配込んだ。
「ちくしょおおおおおお!!」
奴らは転移魔術で既に逃げ道を作っていた。身体能力での逃亡なら直ぐに追いつくが、転移魔術はいくら魔力の流れを認識していても捉えられない。
「ちょっとちょっと、何があったの!!」
ここでエミリーが登場。
窓ガラスとか、壁とか色々破壊したんだ。見に行くのも無理は無い。
「ノア、大丈夫? 何があったの?」
「……ノアくん」
心配してくれているエミリーとアリア。
「ありがとう。でも、オレ今から学園長のところに行かなくちゃ行けないから」
「今日、学園長は出張だよ?」
「……!」
奴らそれを狙って動いていたのか。
じゃあ、尚更やばい事になってきた。
「とにかくごめん、今からルークの試合観にいけそうにないや」
「……じゃあ、今日の試合どうすんの? ノア、今顔真っ青だよ?」
……!! まじか。
奴らはそれを狙ってわざと魔力の流れを垂れ流したな。いや、垂れ流すほどの魔力が必要な魔術を使っていた、ということか。
「……悪い。エミリー。アリア。今日、ルークの応援に行けそうにないわ」
オレは立ち上がって千鳥足でふらつきながら歩いていく。
ここでアリアが袖を掴む。
「……試合、出るの?」
「ああ、その時間までには何とかする」
「……わかった。待ってる」
「……ああ」
おかしいな。
アリアの表情でさえまともに見れない。
アリアは袖を離した。
オレはゆっくり歩いていく。
奴らの危険性はオレが一番わかっているというのにオレはなにも出来なかった。
「くそ」
オレは一度、自身の教室に行って頭を冷やすことにした。
※※※※※
『星極の術魔祭』一年生予選二次予選第九試合。
ノア・ライトマン対ネルノ・ノヴァ。
結局オレはあの一件から苛立ちを収めることができず、試合に臨むことになった。
「やあやあ、初めまして。ノア・ライトマン。私はグライム帝国ノヴァ伯爵長男ネルノ・ノヴァ。以後お見知り置きを」
ああ。お前はグライム帝国の人間か。
ダブラスの国を侵攻しているって野蛮な国だな?
そう言えば、ザノア帝国もフレイが居なくなった瞬間に攻めてきたっけ?
まあいい。
そんなこと今はどうでもいい。
「すまないが、それはできない提案だ。お前のことは知らないしこれからも知らない。今、オレは機嫌が悪いんだ」
それを聞いてネルノはイラついた表情でこちらを見てくる。
「ほう。私のことはどうでもいいということか。ならば、我が天性魔術であなたの機嫌を晴らさせて頂きましょう」
もうすぐ試合が始まる。
『それでは恒例の合図で始めましょう!! 試合開始……!!』
「てんせ――――」
その試合は結界魔術を展開すること無く決着がついた。
ネルノがなにか言いかけたが知らないがオレにはどうでもいい話だ。
『し、試合……終了……。勝者……ノア・ライトマン……』
ジュリーさんが動揺するのも無理は無かった。
それは観客も、試合を見にきてくれたアリア、エミリー、ついでにルークもそう。
なぜならオレはネルノの間合いに一瞬で距離を詰め、壁にヒビが入る程の攻撃を一蹴りのみでネルノを負かしたのだから。
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