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新星歴二九九八年五月二十一日
「まずは第一次予選突破おめでとうと言っておこう、ノア・ライトマン」
「それはどうも」
再びオレは学園長ゼルベルン・アルファに呼び出された。
「あと、学園長として礼を言わせてもらおう。ドラゴン討伐、本当に助かった。ありがとう」
「いいさ。そんなことより、お前わざと一年生のところに来なかったんだよ」
「あ、ばれてた?」
やはりな。
「君も知っている通り、一年生だけでなく二、三年生にも同様な現象が起きた。負けたチームの暴走が起きたんだよ。そして、彼らにはある共通点があった」
「高位魔術《懺悔の錯覚》」
高位魔術《懺悔の錯覚》は自身の負の感情を全面的に引き出し、その倍以上の身体能力、魔力を引き出す精神魔術。よほど精神魔術に強い体質でない限り、大体の人はその魔術に飲み込まれ、最悪死ぬことも少なくない。
「そう。しかも二、三年生両方とも全く同じ魔力を感じた。察するにこれは全てある一人の魔術師が彼らに接近し、大会に合わせて魔術を操作したんじゃないかと推測したんだ」
魔術は緻密な魔力コントロールで時間を遅らせて魔術を発動できる。
しかし、そんなことができる奴はそれ特有の才を持つ魔術師のみ。
この学校にそんな人間はいない。
さらに――――
「これは一年生も二、三年同様ならおそらくわたしの腕試しをしたかったんじゃないのかな」
そういうことか。
「もちろん、学生の魔術師がいくら来ようとわたしは止められる。だが、監視されているなら話が変わってくるんだ」
「わざと実力を隠すように時間をかけて生徒を止めたんだな」
「それに一年生には君がいるし問題ないと判断したんだ」
「それとこれとは話が違うだろ」
おいおい。
オレがもしドラゴンを倒せなかったらどうすんだよ。
「いや、君の実力ならドラゴンを倒せる確信はあった。君の身元引受人が君の実績をべらべら話したからね」
なんでオレの事情を知っているのかと思えばあの皇帝か。どおりで隅から隅まで知っているわけだ。
「そして、その身元引受人から伝言を受け取っているんだよ。『ノア・ライトマンを好きに使ってもいい』ってね」
「何言ってんだよ、たとえお前でもオレが納得しなかったら動かねえよ」
あいつ、オレがお前の言うことを素直に聞くと本気で思ってんのか?
「そこでだ。君に頼みがある。さっき言った件、わたしは今その犯人についてを調査している。そこで君には――――」
はいはい。関わればいいんだろ、そんなの勿論――――
「この件に関わらないでほしいんだ」
「そこは普通協力の流れだろ」
ゼルベルンが訳を説明する。
「わたしは君を『ザノア帝国の魔術師』である前に『私立タレミア魔術学園の生徒』と思っている。そしてこの学園の責任者として生徒を安全にかつ確実に才を伸ばす義務がある。無論、君も一緒だ。だから、この件は我々大人に任せてくれ」
「じゃあ、なんでオレを呼んだんだよ」
ゼルベルンは背もたれに身を任せて答える。
「君には実力がある。万が一、わたしに手が負えない状況になったとき君には自分の判断で対応して欲しいと思っている。そのために呼んだんだ」
なるほどな。その時は「守ってくれ」ってことか。
「わかった。でも、オレで良いのか? オレの他にも強い生徒はいくらでもいるだろ」
「彼らにも話は通してある。君だけに任せているわけじゃないよ」
わかった。
「用はそれだけか?」
「そうだよ。不満か?」
「いや、別に」
オレは手を差し伸べる。
ゼルベルンはそれを察してドラゴンの討伐報酬金を渡してくれた。
オレも一人の魔術師だ。タダ働きはしないさ。
「そういうことだから。君は楽しく学園生活を満喫してくれ」
「わかった」
オレは学園長室を後にした。
※※※※※
「待ってくれ、ノア・ライトマン!」
学園長室から出てしばらくしてオレは背後からダブラスに話しかけられた。
「……なんだよ」
「お前に頼みたいことがある!!」
オレはダブラスのほうに振り向く。
「頼みってなんだよ」
「俺に修行を施してくれ!」
「……は? なんでだよ」
ダブラスの目はまさにまっすぐそのものだった。
「俺は強くならなくちゃいけない。今、俺が生まれ育ったアズガバーナ公国は北のグライム帝国の侵攻を受け今じゃ領地が三分の一になっている。このままじゃ父上が守ってきた国が滅んでしまうんだ。俺はそれを食い止めたい! だから俺を強くしてほしい!!」
そういうことか。でも、お前に一つ残念なことを話さなくちゃいけない
「すまない。それはできない」
「……なんで!」
「お前はすでに地の格闘術を会得している。そして、武術というのはいろんな技がある中で自分の技術として落とし込むで真の力を発揮するもんだ。オレも師匠にはいろんな技を教えてもらったけど結局それを完全に会得したのはオレ自身だからな。もう、お前に教えることは無いんだよ」
「そんな……」
ダブラスの足が崩れ落ちる。そんな悲観するなよ。オレはお前の覚悟を固く受け止めたんだぜ?
「でも、『ザノア帝国の魔術師』としてならお前に協力できる。上に頼んで国家間の同盟をでも結ぶよう提案でもしようかなとは思った」
「……?」
「つまり、お前の国はこれ以上侵攻されない。それどころかお前の国を取り戻してやる」
「……!!」
ダブラスは理解したようだ。
「そういうことだから、話は通しておくよ」
オレは彼のもとを離れようとする。
「ちょっと待てよ!」
「……なんだよ。まだあんのかよ」
ダブラスは立ち上がり、聞いてくる。
「……お前は一体、何者なんだ?」
ああ、それはそうか。
「オレはザノア帝国魔術師団○○○○○○、ノア・ライトマンだ。安心しろ。お前の国は必ず守ってやるよ」
そう言ってオレは彼のもとを去った。
そしてその瞬間、彼が一粒の涙を流した。
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