1ー23 学園長
新星暦二九九八年五月十九日
オレはあろうことか学園長に呼び出された。
ま、大体検討はつくけど。
ノックする。
「失礼します」
入った瞬間、感じる強者の気配。
フレイ以上の魔力量はおろか、技量、経験値、才能でさえ圧倒する威圧。
さらに精霊族特有の長耳と変わらない美貌を持ちながら百年以上の間、この学園のトップを務めてきた本当の化け物。
こいつが五大魔術師第二位。《波動の賢者》。
ゼルベルン・アルファ。
「初めましてかな? ノア・ライトマン。わたしはゼルベルン・アルファ。これから三年間よろしく」
「……お前、他の生徒もこんな威圧出してんのか? さすがにやめとかないと身が持たないぞ」
ゼルベルンはニヤリと笑う。
「随分生意気をこくね、君。他の生徒にはしないさ。ただ、君があのフレイ・ハズラークの弟子だから試しただけさ」
なるほど。こいつはオレの事情を知ってるんだな。
「……さて、茶番はここまでで……。本題に入ろうか、ノア・ライトマン。君はもうわかっていると思うけど一応聞くね。なぜ君はわたしに呼ばれたのかな?」
「結界魔術を壊したからだろ?」
「……そう。君は結界魔術を壊したんだ。かつてわたしがこの学園の学園長に就任してからはや百五十年、私が編み込んだ結界魔術は破られるなんてことは無かった。当然、君の師匠にもね」
「でもルール違反じゃないだろ」
「それはそうだ。寧ろ、君には賞賛までしてるほど嬉しく思っている。もう君はわたしの生徒だからね。生徒のレベル向上は嬉しいものだ。だが、君には一つ言っておくことがある」
……なんか問題あんのかよ。
「君が結界を破ったことで少なからず選手はおろか観客の方々まで危害が被るところだったんだ。いくらすぐに簡易的な結界魔術を貼ったところで、本来の結界魔術より精度は劣る。今回はすぐに試合が終わったからいいものの、もしこのままルナ・サレムーンの天性魔術が行使していたらどうなる? 少なくとも結界は破れ会場ごと消し飛ぶだろう。つまり、わたしの言いたいこと理解してくれたかな?」
なるほどな。つまり安全性を考えろってことか。
「だが、結界魔術を破るなどという新しいルールは追加しない。それは一つ戦法としてわたしは捉えている。だから、今後このようなことが無いよう結界を破壊した本人には釘を刺しておこうとは思う」
ゼルベルンは驚くべき事を口にした。
「次結界を破ったら、君を『死刑』にする」
「……は?」
なんでそうなんだよ。一つの戦法として捉えてなかったのか?
「君はわたしが寝る間も惜しまずに編み込んだ結界魔術を壊したんだ。つまり、死に値するよ」
「お前、絶対冗談で言ってるだろ」
フレイみたいなこと言いやがって。大体五大魔術師とかいう肩書きを持ったやつ基本こういう奴らばっかなのか?
すると、 ゼルベルンは少し笑った。
「君の言う通り、冗談だよ。結界魔術なんてすぐ直せる。それにわたしは結界魔術を壊したことに『嬉しい』と言ったんだよ? そんなことぐらいで殺しはしないよ」
そんなんで殺されてたまるかっての。
「……気を取り直して。次、君が結界魔術を破壊した場合なんだけど」
やっと本題か。
「君には強制的に次の出場を棄権してもらう。トーナメントだと負けになるね」
なるほど。
「わかった」
「よろしい。もう、下がってもいいよ」
「……迷惑かけたな」
「気にするな。子供に迷惑かけられるのなんて先生としてケツを拭くのは当然だ」
オレは退出しようとドアを開けようとした。
「楽しめよ、ノア・ライトマン。君の今後の活躍にわたしは期待している」
オレは少し笑みを浮かべそのまま退出した。
扉を閉めた後、扉でずっと待機していたリーナとアリア、エミリーがいた。
「あんた、やらかしたわね」
「本っ当にお兄ちゃんは、どうしようも無いね」
どういう反応だ、これ?
アリアが袖を少し引っ張る。
「次、『死刑』ってほんと?」
「冗談って聞こえなかったか?」
リーナ、アリア、エミリーは三人とも首を傾げた。
まさか……。
高位魔術《無風の沈黙》は、特定の人間にかけて一時的に聞こえなくする魔術。
あの、五大魔術師第二位め、図りやがったな……!!
そのあと、ちゃんと三人には本当の事情を説明した。
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