1-9 タレミシア魔術大国①
新星歴二九九八年五月七日
オレには未だにどうしてもわからないことがある。
それはなぜか女の子にモテないということだ。
もうすぐ入学して一ヶ月が経つ。
何故だ?
オレはこの学園高等部一年生の首席だよ?
リーナには散々「気持ち悪い」と言われているが、顔は整っている。はずだ。
笑顔を作るのが苦手なだけ。なはずだ。
なのにこの一ヶ月はモテるどころか逆に怒りを買われ散々な目に遭ってきた。
何故だ。日頃の行いは良いはずだ。
なんか思ってた学園生活とは全然違う。
と言ってもそもそも学園生活がよくわからないけど。
とにかくおかしい!
オレは女の子にモテるためにこの学園に来――――。
思いっきしハリセンで頭を叩かれた。
「痛って。何すんだよ」
「あんた、バカじゃないの」
「……何が?」
「声、駄々洩れなんだけど」
それはとても恥ずかしい奴だ。
というかどこからハリセンを取り出したの?
「……何がバカなんだよ」
「当たり前じゃない。あんた、(一応)彼女いるじゃない。私っていう清廉潔白で才色兼備なリーナ・ラカゼットっていう彼女が」
「自分で言うか。それ?」
「事実じゃない。(不可抗力とはいえ)私が彼女なんだから誇りなさい」
うわ。
教室で叫ぶオレもヤバいと思うけど、こいつも相当だな。
「はあぁぁぁ」
「何溜息してんの? なにか不満?」
「いえ。なにもありません」
片言になって返した。
ここでリーナが切り出す。
「……あんた、『星極の術魔祭』に出るんだね」
「ああ」
「良かったぁぁ、これで私が本当の意味で優勝できる」
「優勝するのはオレだけどな」
リーナがこちらをじとーっと見つめてきた。
「……なんだよ」
「別に。でも、私だってこの一か月ちゃんと頑張ってきたんだから。今度は絶対勝つよ」
「それは楽しみだなぁぁ」
一番心に籠っていない声援を送る。
リーナはオレを見て頬を膨らませた。そして、溜息を零した。
「ま、いいわ。今度の休日、私に付き合いなさい」
「なんでだよ」
「いいじゃない。どうせ、予定ないんでしょ」
「……で、何すんだよ」
「決まってんでしょ、デートよデート! だって最近してなかったじゃない。また、周りから怪しまれてるの」
ま、最近はしてないな。
この学園は全寮制。二人で行動を全くしていないと、そういう噂が諸に目立つ。だから、休日にたまにリーナと遊びに出かけている。
別に噂が立ってもいいんじゃないの?
と、思いながらもリーナに答える。
「わかった。で、次はどこ行くんだよ」
「それはね――――」
※※※※※
新星歴二九九八年五月十日
タレミシア魔術大国。
かつてはタレミア王国と呼ばれた大国。
この国は十年前、突如として現れたゴーレム型の巨大魔物が出現し、建国史上最大の大厄災に見舞われた。その途端、国王は国民を捨て逃亡し、多くの国民が犠牲となった。
この厄災を救ったのが現タレミシア魔術大国 国王グレイバル・サタンである。
彼は巨大魔物を討伐し、そして国民の支持のもと、国王に至った。
と言うのは置いといて、オレは今、タレミシア王国の王都でも地元じゃかなり有名の隠れた名店である喫茶店『グラン・ラビオ』という店でリーナを待っている。
「おーい、ここだぞ」
リーナが約束の時間より少し遅く到着した。
「お待たせ。待った?」
「待った」
「ごめんごめん」
店員が来る。
「ご注文は何にしましょう」
「そうだな……コーヒーで」
「砂糖やミルクは要りますか」
「いいです」
「畏まりました。では、彼女さんの方はいかがしますか?」
「私も同じく。砂糖とミルクはください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言って店員は厨房に戻る。
「ていうかあんた、砂糖なくて良いの? カッコつけなくていいんだよ?」
「オレはいつも入れねえんだよ。コーヒーそのものを楽しんでんの」
「本当に?」
「本当だよ」
全く、こいつは……ん?
喫茶店のメニュー表を見ると、喫茶店では決して見ないものがあった。
「なんでここに魔力促進剤があんだよ」
魔力促進剤。
それは魔力を増幅させる奇跡の飲料。
魔力は生まれた時から大体の総量が決まっている。
単純に言えば、貴族は魔力総量が非常に高く、平民は比較的少ない。
だが、この魔術大国建国時より国王が開発して作られたこの魔力促進剤『ミスリードサタン』はその魔力を一時的ではなく永続的に魔力総量を増加させることに成功。魔術大国内のみに発売され、後にこれのおかげで魔術研究が進み、本当の意味で魔術大国となった。
「そんなの、売れるからじゃないの? 安価だし。それに『一番人気』って書いてるでしょ」
「ほんとだ。お前は飲まないのか」
「いい。なんか嫌だ」
「そう」
まあいいか。
ここで店員がコーヒーを持ってきた。
「お待たせしました」
「ありがと」
オレは少しだけ啜ってみる。
リーナはというと少しオレに影響されたのか、オレを見ながら砂糖もミルクも入れず恐る恐るコーヒーを啜った。瞬間にいかにも不味そうな顔をしてコーヒーカップを皿に乗せた。
「苦い」
「あんま無理すんなよ」
「あんた、よく飲めるよね」
「慣れてるからな」
本当はフレイに散々子ども扱いされたから飲めるようになっただけなんだけど。
リーナはコーヒーを飲み直す。
「おいおい。無理すんなって」
「無理してない!!」
そう言ってリーナは一気に飲み干して、すげえ渋い顔になった。
リーナのその顔を見て少し笑ってしまった。
「なによ」
「別に」
オレもすぐにコーヒーを飲み干し、オレたちは喫茶店を出た。
オレはこの時、なにか嫌な雰囲気を感じた。
何かがおかしい。
そう思いながらも今日はリーナとのデートを楽しむことにした。
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