1-6 寮探し
「……なに? 勉強してるところなんだけど」
一瞬、殺気溢れた眼差しには驚いたけど、そうは言ってられない。
「今、学生寮探してんだけど案内してくれないか?」
「は……? 今から?」
あ、もう夕暮れだ。
「いや、また今度でいいよ。さすがにこの時間から案内してもらうのは悪い」
オレはすぐに引き返そうとした。
こいつにも予定とかあるだろ。
しばらく野宿か。
「待って」
リーナが呼び止める。
「……なに?」
「明日ならいいよ。明日の授業は朝だけでしょ?」
マジか。
※※※※※
新星歴二九九八年四月二十二日――――放課後。
まさかリーナから誘われてるとは思わなかった。
オレは制服で集合場所の校門前で待っている。
「お待たせ……ってなんで制服なの!」
リーナは白のシャツにベージュのカーディガンを羽織っており、青のショートパンツを着用。
膝まで覆うぐらいの黒と白の縞模様の靴下を履いていた。
まるで誰かとデートに向かうみたいにすごく似合ってる。
「じゃ、オレはこれで」
「ちょっと待って! なんで逃げるの!」
「いや、どう見ても誰かと一緒に行くんじゃねえの?」
「あんたと行くからに決まってるでしょ!」
……ん?
「別に制服でもよくない?」
「何言ってんの! この二週間、あんた私に話しかけることもなかったじゃない!!」
「それが?」
「私はあんたとの『決闘』に負けた。だから、私たちは正式に恋人なわけ」
すっかり忘れてたわ。
「恋人の役なんてやらなくていいぞ。オレはただお前からオレの秘密を暴露してくれなかったら良いだけだから」
「そうもいかないから言ってんでしょ! 噂になってんの、私たちがまだデートしてないことが! あんたが交際するなんて言うから!」
ええぇぇぇ……。
「とにかくそのままでいいから行くよ!!」
オレは言われるがまま腕をつかまれて連行された。
※※※※※
学生寮には大きく三つの寮に分けられる。
「まずはここ各国の王族や名門貴族が集うライオンの紋章の貴族寮『獅子の雄叫び』。ここに住む学生は王族や貴族しかいなくてご飯も高級料理ばかり。強固な結界魔術が二、三重に貼られていて基本、関係者以外は立ち入り禁止。けど、盗賊や反社会組織に入られたことないから、基本寮にいれば安全かな。その代わり、月額のお金は大体平民の一年で稼ぐ金額でとにかく高い」
「却下だな」
「言うと思った。でも、あんたライトマン家だよね? 入る資格は十分あると思うけど……そっか、学生寮にお金を払いたくないほどあんた貧乏だったわ」
「おい」
「次に魔術師団所属の魔術師のご子息がよく入る学生寮がこの『薔薇の巣窟』。『獅子の雄叫び』ほど豪華じゃないんだけど、ここはここでいい設備が揃ってる。入る学生の中には『獅子の雄叫び』には入れないけど『薔薇の巣窟』になら入れる余裕のある貴族の子もここに入るよ。ここも金額的には高い」
「却下だ」
「ま、あんたには無理だろうね。あんたが入ったらもれなく浮いちゃうからね」
「だろうな」
「でも、ここの寮が一番五大魔術師を輩出してるんだよ」
「偶然だろ」
「そして三つ目の寮、ここは男爵ぐらいの貧乏貴族や、お金の無い魔術師のご子息、それに平民が入るこの寮が『兎の戯れ』。ここは他の二つの寮と比べて金額的には格安なんだけど、設備はきっちりしていて学業に支障は出ないぐらいには綺麗だよ。もっと言うなら、ここの学生は階級関係なく皆平等に接しているから一番平和な学生寮かもしれない。他の寮は上下関係がすごく厳しいからたまに喧嘩があるんだって。
ここだったらいいんじゃない?」
「却下だな」
「えぇぇ……」
「そういえばオレ、集団行動できないんだった」
根本的に寮に入るのは無理なことは理解できた。
三年間野宿か……。仕方ないな。
「そう言えばお前はどこに入ってるんだ? やっぱ『獅子の雄叫び』か……?」
「私はどこも寮には入ってないよ」
「自宅からか……?」
「うぅうん、違う。この学生寮とはまた別のところの寮に住んでる」
他のところ? そんなとこあったっけな?
「来る……?」
「わかった」
最後に三つの学生寮以外の寮に案内された。
※※※※※※
三つの学生寮とは違い『兎の戯れ』からさらに十分歩いたところにその学生寮はあった。
少し古びた石造の平屋だけどどこか見覚えがあるようなないような建物だった。
「ここが私が住んでる学生寮『紅葉の山荘』。ご飯とか家事全部自分たちでやらないといけないんだけど、その分金額は安い。ここは広々と魔術の特訓できるから私はここにしたんだよね」
なるほどな。
ここなら、高位魔術ほどの災害を及ぼす魔術は使えないけど、それ以外なら門限に限らず特訓できるわけか。それにここにはたくさんの動物がいるからそいつらを倒すこともできる。
「ちゃんと考えてんだな」
「ちょっと、それどういう意味!」
すると、二人の少女が玄関から出る。
「なになに? 新しい人? ってあれ? ノアじゃん!」
「…………」
そこにいたのはエミリー・ライトマンとアリア・マグナードだった。
「ってなんでお前がいんだよ。お前なら『獅子の雄叫び』にいけただろ」
「別にいいじゃない。私はここでいいの!」
「え、そう言えばあんたたちって従兄妹だよね」
「「実の兄妹だけど」」
「え、双子?」
「おう」
「そうなんだよ、リーナちゃん! こんなどうしようもない兄と付き合ってくれてありがとね」
「え、いや、その……」
リーナとエミリーが話してる間、オレはアリアに話しかけてみる。
「よ、よう。お前、ここに入ってたんだな」
「…………」
アリアはそっぽを向いて答えてくれない。
その時、玄関からある少年が現れた。
オレはそいつを見た瞬間、衝撃と怒りがこみ上げた。
オレはリーナとアリア、エミリーを置いて奴のほうに行き、胸ぐらをつかんだ。
「なんでお前がいるんだ!! ルーク・フランドル!!」
2024年4月17日21:21頃にもう一話投稿します。
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