0ー37 『恩返し』
「なあ、いつまで正体を隠しているんだ、ケイロス? いや、こう言った方がいいか?
――――『魔術師殺し』」
ケイロスはオレたちを見てニヤッと笑う。
「……なんでそう思った、ノア・ライトマン?」
「そうだな……。……『生き残り』がいる時点で既にお前を疑っていた。五大魔術師の実力を持っている魔術師がわざわざ自分の情報を知っているごく一般的な魔術師を取り逃がすかってな。
それにお前は『魔術師殺し』を倒す手掛かりすらオレたちに提示しなかった。一つでもどういう魔術かを言えばまだ信用出来たんだけどな。
仕上げにオレは事前にダンベルさんから『魔術師殺し』討伐隊の訃報を聞いている。さっきダンベルさんに聞いてみたら言っていることが食い違っていた」
「……へぇ。可笑しいなぁ」
奴は髪を掻き上げる。
「天性魔術は正常に発動してるはずなんだけどなぁ」
やはり……。コイツがあの『魔術師殺し』。
数々の最上位魔術師を殺し、そして、フレイとアズバングさん殺した魔術師。
「……隠す気ねぇんだな」
「当たり前だろ? 隠す必要無いからなァァァ!」
無詠唱で高位魔術《断崖の業火》を速射。
「光の剣術“【秘剣】魔術返し”――――!」
オレは即座に奴の魔術を弾き、奴の頭上を超え爆発した。
奴はビクともせずに言う。
「やるじゃないか。さすがおれを倒そうとする人間だ。それ相応の実力はあると見た。だか、おれには届かない」
オレは剣を構える。 ――――何か来る……!
「我が親愛なる魔王様、この場で貴殿の力を欲する。
溶岩広がる大地。鮮明に染った黒風。
その地は様々な生物を奪い、地獄へと誘う劣悪の世界。
さあ、始めよう。ようこそ地獄の桃源郷へ。
結界魔術《煉獄》」
最悪だ。この瞬間、オレたちは逃げることすらできなくなった。
「どうだ? 苦しいだろう? 耐えかねんだろう? これが我が主から賜った結界魔術《煉獄》だ……!」
対象の生物を自分の都合のいい環境に閉じ込める、展開することで有利に進める基本魔術・結界魔術。
その場を退けるには術者を瀕死以上の状態にするか、その結界魔術以上の魔力量を持った結界魔術もしくは広範囲の基本魔術で破壊するしかない。
そうでもしないと奴より先にこちらの体力が先に尽きる。
現にダンベルたちは既に息を荒らげている。
「ダンベル、他の二人でもいい。この結界魔術を脱する事ができる程の基本魔術はできるか?」
「残念ながら俺たちにはできない。奴は五大魔術師を倒せる程の実力を持つ。現時点では無理だ」
「ならせめて、鎧を脱げ。お前らの身につけてる金属でより体温が上がってるんだ。少しでも生き延びたいなら脱げ」
「わかった。だが、君は大丈夫か?」
「ああ」
オレは本当に大丈夫だ。
ダンベルたちと違って暑さは全く感じていない。
普通、結界魔術は環境だけでなく五感全て影響されるはずだけど……。
まあ、いい。好都合だ。
「ほう。耐えるか、ノア・ライトマン」
「気軽にオレの名前を呼ぶな。それよりそろそろお前も本当の姿を現せよ」
「……くくくっ。そうだな。そうしよう……!」
奴は黒渦に呑まれ、そして現れる。
「おま、え……」
そういうことだった、か……。
その青年はあの日と同じ、髪は白く育ちの良さそうな格好をしていた。
お前は追ってるんじゃなくて追われてたんだな。
「久しぶりだね、ノアくん。図書館以来かな?」
「まさかお前だったんだな、ルーク・フランドル」
西方のフランドル・タリア連邦。
南西のアズガバーナ公国。
そして、南方のザノア帝国。
実に段取りが良いとは思っていた。まさか、それが自分の殺害する場所だとは思ってもみなかったが。
「どうした? ショックだったか……?」
「……いや。やっとこれでお前を倒せると思ってなぁ……!」
一瞬で奴の間合いに入った。
「くっ……!」
「光の剣術“【宝刀】煌めき”……!!」
首元まで剣が届く。
剣は奴の首を掻き切り、首は宙へと舞う。と思っていた。
「残念だったな」
これは……。
高位魔術《蜃気楼》。
自分自身の「影」を作り、相手に幻覚を見せる闇魔術。
「卑怯な手だな」
「どの口がそれを言う。……まあいい。来い! 魔剣《悪行の冥剣》……!!」
右手に黒渦を巻いて、それを振り払う。すると奴は魔剣を持っていた。
その演出好きだな。
「覚悟しろ、ノア・ライトマン。我に刃向かった報いを味あわせてやる……!」
「それはオレの台詞だ。来世諸共、お前の全てを破壊する……!」
戦闘が始まった。
※※※※※
『行っちゃダメ……!』
そうフレイに言われた。
でも、オレは後戻りなんてしない。
これは復讐じゃない。
オレが最初にする『恩返し』だ……!
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