0ー34 裁判
「お茶を持って参りました」
使用人はテーブルに茶を二人分置く。
「……………………」
ダンベルさんは沈黙する。
なんだよ。急に黙り込んで。
この密閉された空間。部屋にはオレとダンベルさん、それに使用人だけ。
外部からの音が全く聞こえず、空気が重くなっていく。
少し茶でも啜っとこ。
……美味い。
「……………………」
この人はいつまで考えてるんだ?
オレから先に口を出す。
「……そういうことだから、『魔術師殺し』の居場所を教えて欲しい」
「…………教えて、どうするつもりだ……?」
「今すぐにでも倒しに行く」
「……そうか」
すると、ダンベルさんは立ち上がる。
「却下だ。今すぐこの城から退出して頂こう」
「断る」
「君に断る権利など無い。今すぐ立ち去れ」
「断る……!」
ダンベルさんは腰の剣を抜き、オレに向ける。
「これ以上私に従わないのなら、君は暴行の罪により武力を以て君を裁く……!」
ダンベルさんの顔は……本気だ。
なるほど。オレをそこまでして『魔術師殺し』を遠ざけたいか……。
だったら――――
「やれるもんならやってみろよ……!!」
オレも剣を抜こうとして立ち上が――――。
「なっ……!!」
立ち上がろうとした瞬間、平衡感覚を失い倒れてしまった。
「クソっ……! 何しやがった……!!」
ダンベルは剣を鞘に戻す。
「すまないね。君には少々を毒を入れさしてもらった。安心してくれ。死にはしない」
ど、毒……!
そんなのどこで入れられたんだ……!
畜生……!
思考が定まらない……!
……このままじゃ駄目だ。
とにかく立たないと……。
くそっ……!
立ち上がろうとしても視界がボヤけて、頭が真っ白になっちまう。
くっっそがあぁぁぁぁぁぁあ……!!
「幾ら英雄の弟子と言えどこうなってしまえば無様なものだね……」
く、くそっ……。意識が……。
オレは一瞬テーブルの上の茶を見る。
……あ、れに毒が……ま、じって……いたの……か……。
不服にもオレはこれ以上の記憶は無くなっていた……。
※※※※※
気づけばそこはオレの知らない場所だった。
「ここ……は……」
その瞬間、全てを思い出す。
オレは全力であのクソ野郎の元に行かな――――はぁ……! なんだこれ……!
いつの間にかオレは両腕を縛られ拘束されていた。
「くそっ……! ほどけっ……!!」
「すまないね、ノアくん」
ダンベルが横に立っていた。
「お前……オレをハメやがって……!」
「まあ落ち着けよ。確かに俺は君を騙した。それは謝るよ」
「だったら、今すぐこの手錠をほどけっ……!」
「それはできないね。だってもうすぐ皇帝陛下がこちらに来られるんだから」
皇帝……?
「皆の者! 頭を垂れよ! 我が皇帝陛下の御成になられるぞ」
オレは頭を上げる。
その光景はまるで別世界で神々しく、そして真ん中にあるどう見ても座りにくそうな背板が極端に大きい椅子に、無駄に服装を羽織っているおっさんがそこに向かう。
遅。
「今から何始まんだよ」
「うるさい。静かにしてくれ」
ダンベルはいつしか膝立ちをしていた。
おっさんはそのやべぇ椅子に座る。
「面を上げよ。楽にして良い」
おっさんが言うと、周りの貴族が一斉に立ち上がった。
なんだこいつら。
するとあのおっさんの側近らしき人物が本題を持ち込む。
「この度、お忙しいながら足を運んで頂きありがとうございます。これより、罪人の裁判を始める」
罪人……?
「おい、ダンベル。罪人って、誰が罪人なんだ?」
なんだ、その目?
他の奴らもオレに冷酷な視線を送ってくる。
「……あ、オレか」
「ごほん、では皇帝陛下。この罪人は帝城の不法に侵入し、魔術師団員の危害に加え、はたまた魔術師団長にまで危害を加えようとしました。どうかこの罪人に正しい裁きを言い渡し下さい」
オレの前で座るおっさんは立ち上がる。
いや、おっさんじゃねえ。
こいつがザノア帝国皇帝 グローリアル・ザノア・アルカナディア。
「ほう、なんだその目は」
オレは奴を睨む。
「貴様……! なんだその態度は……!」
「本来貴様のような人間が決してお会いできる方では無いのだぞ!」
「ダンベル! その罪人の頭を下げさせろ!」
「この無礼者が……!」
「静粛に……!」
貴族どもは一斉に静かになった。
こいつらがどう顔を歪ませようとオレはじじいを睨みつける。
「……ほう。まだその目ができるか」
「…………」
「……貴殿の名は?」
「……ノア・ライトマン」
「……なるほど。貴殿がかの五大魔術師、フレイ・ハズラークの弟子か」
「そうだ」
貴族どもはオレの名を聞いて騒然する。
「ライトマンだと……!? 奴はレミリア王国の三大貴族の者なのか!」
「なぜ三大貴族の者がこのような事をするのだ!?」
「まさか宣戦布告か……!?」
「いや、我らザノア帝国とレミリス王国は友好関係にある。そのようなことは無い筈だ」
「だとしたら、なぜあの罪人はこのような謀反を起こしたのだ!」
「聞いていなかったのか? 奴はフレイ・ハズラークの弟子と聞こえたぞ」
「!! ……あやつに弟子がいたのか」
「ならば、これは罪人のほうふ――――」
「静粛に――!!」
再び貴族どもは静まり返った。なんだこいつら。
皇帝は続けてオレに問う。
「では、なぜこのような罪を犯した?」
「犯した、だと……?」
何言ってんだ……?
「オレは『魔術師殺し』を倒しにきただけだ!」
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